大手拓次
『藍色の蟇』

白い狼

  
  白い狼


 
 白い狼が
 
 わたしの背中でほえてゐる。
 
 白い狼が
 
 わたしの胸で、わたしの腹で、
 
 うをう うをうとほえてゐる。
 
 こえふとつた白い狼が
                        もも
 わたしの腕で、わたしの股で、
 
 ぼう ぼうとほえてゐる。
 
 犬のやうにふとつた白い狼が
 
 真赤な口をあいて、
 
 なやましくほえさけびながら、
 
 わたしのからだぢゆうをうろうろとあるいてゐる。