大手拓次
『藍色の蟇』

みどりの薔薇

  
  薔薇の誘惑


 
 ただひとつのにほひとなつて
 
 わたり鳥のやうにうまれてくる影のばらの花、
             
 糸をつないで墓上の霧をひきよせる影のばらの花、
                           かめ
 むねせまく ふしぎなふるい甕のすがたをのこしてゆくばらのはな、
 
 ものをいはないばらのはな、
 
 ああ
 
 まぼろしに人間のたましひをたべて生きてゆくばらのはな、
 
 おまへのねばる手は雑草の笛にかくれて
 
 あたらしいみちにくづれてゆきます。
 
 ばらよ ばらよ
 
 あやしい白薔薇のかぎりないこひしさよ。