大手拓次
『藍色の蟇』

風のなかに巣をくふ小鳥

  
  風のなかに巣をくふ小鳥

       ――十月の恋人に捧ぐ――


 
 あなたをはじめてみたときに、
 
 わたしはそよ風にふかれたやうになりました。
 
 ふたたび みたび あなたをみたときに、
 
 わたしは花のつぶてをなげられたやうに
 
 たのしさにほほゑまずにはゐられませんでした。
 
 あなたにあひ、あなたにわかれ、
 
 おなじ日のいくにちもつづくとき、
 
 わたしはかなしみにしづむやうになりました。
 
 まことにはかなきものはゆくへさだめぬものおもひ、
 
 風のなかに巣をくふ小鳥、
 
 はてしなく鳴きつづけ、鳴きつづけ、
 
 いづこともなくながれゆくこひごころ。