萩原朔太郎

(新潮社「萩原朔太郎全集 第一巻」より 1959年4月5日発行)
『月に吠える』
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ひとりごと
 萩原朔太郎の詩をはじめて読んだとき、しばらく呆然としていた記憶があります。朔太郎の詩の怪しいまでに美しい言葉のつらなりに、ただただ圧倒され、理解などというものがとうてい及ばない、不思議な魔法の世界に迷い込んだような気分になりました。ガラスのように透明で、ナイフのように鋭く、綱渡りのように不安定な詩の数々に、すっかり酔っぱらったようになっていたのだと思います。
 ものすごく飲みにくい薬を、無理矢理飲まされた感覚にも似ていました。言葉というものが、使い方によっては心を抉るような凶器にも、エロチックで幻想的な宝玉にもなることを、15歳の私にはじめて教えてくれたのが『月に吠える』でした。
 人間の心の奥底に潜む孤独感や不安、焦燥感などが、磨りガラス越しに透けて見えるような、なんとも言えない読後感は、いまだに変わるところはありません。好きだけれど、読めば必ず毒にあてられそうで、それでもやっぱり読まずにいられない。それが、私にとっての萩原朔太郎です。


萩原朔太郎(はぎわらさくたろう)[1886〜1942]について
  • 大正・昭和期の詩人。群馬県前橋市に生まれる。はじめ与謝野晶子や石川啄木の影響下に短歌を作ったが、のちに詩作に転じ、北原白秋、室生犀星と親交をむすんだ。
  • 1916年(大正5)に室生犀星、山村暮鳥らと詩誌「感情」を創刊。1917年(大正6)に31歳で出版した第1詩集「月に吠える」で詩人としての地位を確立した。他の代表作に「青猫」(1923)「純情小曲集」(1925)「氷島」(1934)などがある。
  • 散文の著作も多く、「新しき欲情」(1922)、「詩の原理」(1928)、「郷愁の詩人与謝蕪村」(1936)、「日本への回帰」(1938)などがある。


『月に吠える』について

 萩原朔太郎の第1詩集。1917年(大正6)に感情詩社・白日社出版部により共同刊行。近代人の孤独や不安をとらえ、するどい感覚で自己の内面世界を形象化するとともに、斬新なことば遣いとリズムによって独自の詩風を作り上げ、近代自由口語詩を完成させたと言われる詩集です。

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