石川啄木


  
 騎馬の巡査

たえま               すだちよう  ひとごみ  なか 
絶間なく動いてゐる須田町の人込の中に、
たえま    め   くば                 き ば 
絶間なく目を配つて、立つてゐる騎馬の巡査――
 
見すぼらしい銅像のやうな――。

はくち    こぞう                     くぐ 
白痴の小僧は馬の腹をすばしこく潜りぬけ、
 
荷を積み重ねた赤い自動車が
           ゆ 
その鼻先を行く。

       ゆきき       なか 
数ある往来の人の中には
           ひ 
子供の手を曳いた巡査の妻もあり
さと              い        みち 
実家へ金借りに行つた帰り途、
    こ 
ふと此の馬上の人を見上げて、
      おつと つとめ 
おのが夫の勤労を思ふ。

               ひ 
あ、犬が電車に轢かれた――
 
ぞろ/\と人が集る。
 
巡査も馬を進める……
 




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