立原道造「優しき歌 I


 
 甘たるく感傷的な歌


 
その日は 明るい野の花であつた
            ききよう
まつむし草 桔梗 ぎぼうしゆ をみなへしと
 
名を呼びながら摘んでゐた
 
私たちの大きな腕の輪に

 
また或るときは名を知らない花ばかりの
 
花束を私はおまへにつくつてあげた
 
それが何かのしるしのやうに
 
おまへはそれを胸に抱いた

 
その日はすぎた あの道はこの道と
 
この道はあの道と 告げる人も もう
 
おまへではなくなつた!

                        くさむら
私の今の悲しみのやうに 叢には
 
一むらの花もつけない草の葉が
 
さびしく 曇つて そよいでゐる