立原道造「優しき歌 II


 
 序の歌


 
しづかな歌よ ゆるやかに
 
おまへは どこから 来て
 
どこへ 私を過ぎて
 
消えて 行く?

 
夕映が一日を終らせよう
 
と するときに――
 
星が 力なく 空にみち
 
かすかに囁きはじめるときに

 
そして 高まつて むせび泣く
げん 
絃のやうに おまへ 優しい歌よ
 
私のうちの どこに 住む?

 
それをどうして おまへのうちに
 
私は かへさう 夜ふかく
 
明るい闇の みちるときに?