立原道造「優しき歌 II


 
 V また落葉林で


 
いつの間 もう秋! 昨日は
 
夏だつた……おだやかな陽気な
 
陽ざしが 林のなかに ざわめいてゐる
 
ひとところ 草の葉のゆれるあたりに

 
おまへが私のところからかへつて行つたときに
 
あのあたりには うすい紫の花が咲いてゐた
 
そしていま おまへは 告げてよこす
 
私らは別離に耐へることが出来る と

 
澄んだ空に 大きなひびきが
 
鳴りわたる 出発のやうに
                         やまなみ
私は雲を見る 私はとほい山脈を見る

 
おまへは雲を見る おまへはとほい山脈を見る
                                     まな
しかしすでに 離れはじめた ふたつの眼ざし……
 
かへつて来て みたす日は いつかへり来る?