立原道造「萱草に寄す」


 
SONATINE No.1

  
 またある夜に


 
私らはたたずむであらう 霧のなかに
 
霧は山の沖にながれ 月のおもを
なげや
投箭のやうにかすめ 私らをつつむであらう
    とばり
灰の帷のやうに

 
私らは別れるであらう 知ることもなしに
 
知られることもなく あの出会つた
 
雲のやうに 私らは忘れるであらう
み を
水脈のやうに

 
その道は銀の道 私らは行くであらう
 
ひとりはなれ……(ひとりはひとりを
 
夕ぐれになぜ待つことをおぼえたか)

 
私らは二たび逢はぬであらう 昔おもふ
 
月のかがみはあのよるをうつしてゐると
 
私らはただそれをくりかへすであらう