立原道造「萱草に寄す」


 
SONATINE No.1

  
 のちのおもひに


 
夢はいつもかへつて行つた 山の麓のさびしい村に
 
水引草に風が立ち
 
草ひばりのうたひやまない
 
しづまりかへつた午さがりの林道を

 
うららかに青い空には陽がてり 火山は眠つてゐた
 
――そして私は
 
見て來たものを 島々を 波を 岬を 日光月光を
 
だれもきいてゐないと知りながら 語りつづけた……

 
夢は そのさきには もうゆかない
 
なにもかも 忘れ果てようとおもひ
 
忘れつくしたことさへ 忘れてしまつたときには

 
夢は 真冬の追憶のうちに凍るであらう
                          せきれう
そして それは戸をあけて 寂寥のなかに
 
星くづにてらされた道を過ぎ去るであらう