立原道造「暁と夕の詩」


  
 X 朝やけ


 
昨夜の眠りの よごれた死骸の上に
 
腰をかけてゐるのは だれ?
 
その深い くらい瞳から 今また
 
僕の汲んでゐるものは 何ですか?

            ひとや
こんなにも 牢屋めいた部屋うちを
 
あんなに 御堂のやうに きらめかせ はためかせ
 
あの音楽はどこへ行つたか
    かたち
あの形象はどこへ過ぎたか

 
ああ そこには だれがゐるの?
 
むなしく 空しく 移る わが若さ!
 
僕はあなたを 待つてはをりやしない

 
それななにぢつと それのベットのはしに腰かけ
 
そこに見つめてゐるのは だれですか?
 
昨夜の眠りの秘密を 知つて 奪つたかのやうに