中原中也「山羊の歌」


    
   妹 よ


                  な
夜、うつくしい魂は涕いて、
                   あたりき
  ――かの女こそ正当なのに――
 
夜、うつくしい魂は涕いて、
 
  もう死んだつていいよう……といふのであつた。

 
湿つた野原の黒い土、短い草の上を
 
  夜風は吹いて、
 
死んだつていいよう、死んだつていいよう、と、
 
  うつくしい魂は涕くのであつた。
 
夜、み空はたかく、吹く風はこまやかに
 
  ――祈るよりほか、わたくしに、すべはなかつた……