上田敏「海潮音」

 
 岩陰に

  ロバアト・ブラウニング




 
     一

  あ あ   ものふ    とびいろ    ち    ほほゑみ  おほ
 嗚呼、物古りし鳶色の「地」の微笑の大きやかに、
                 け さ      ひなたぼこり  そのほね
 親しくもあるか、今朝の秋、 偃曝 に其骨を
  のば よこた  ひざしぶ                    さざなみ
 延し横へ、膝節も、足も、つきいでて、漣の
 よろこ        こをどり                  ひ
 悦び勇み、小躍に越ゆるがまゝに浸たりつゝ、
    そばた                     とこ   うみひばり
 さて欹つる耳もとの、さゞれの床の海雲雀、
  にこげ       しろたへ てん
 和毛の胸の白妙に囀ずる声のあはれなる。
 

 
     二

            かん      ふ    まこと
 この教こそ神ながら旧るき真の道と知れ。
 おきな     ち          ゑ      こころみ
 翁びし「地」の知りて笑む世の試ぞかやうなる。
             ねうち
 愛を捧げて価値あるものゝみをこそ愛しなば、
      まつ
 愛は完たき益にして、必らずや、身の利とならむ。
 おもひ              いや
 思の痛み、苦みに卑しきこゝろ清めたる
                むくひ            そら
 なれ自らを地に捧げ、酬は高き天に求めよ。



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