上田敏「海潮音」

 
 海光

ガブリエレ・ダンヌンチオ




  こ ら           まさかり
 児等よ、今昼は真盛、日こゝもとに照らしぬ。
 じやくまくだいかい  らいはい
 寂寞大海の礼拝して、
  あ ま つ ひ         こう
 天津日に捧ぐる香は、
  きよ      うしほ
 浄まはる潮のにほひ、
 とどろ なごり  ゆる    いはね  なび
 轟く波凝、動がぬ岩根、靡く藻よ。
  くろがね       へさき
 黒金の船の舳先よ、
 みさきたいしやいろ        ふみとどま
 岬代赭色に、獅子の蹈留れる如く、
                    いりうみ
 足を延べたるこゝ、入海のひたおもて、
 
 うちひさす都のまちは、わづらひ
 
 煩悶の壁に悩めど、
        しらかは  くもて
 鏡なす白川は蜘手に流れ、
 
 風のみひとり、たまさぐる、
 ほらあなぐち
 洞穴口の花の錦や。



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