八木重吉
「秋の瞳」

 
   大和行


  やまと
 大和の国の水は こころのようにながれ
 
 はるばると 紀伊とのさかひの山山のつらなり、
        き ん
 ああ 黄金のほそいいとにひかつて
 
 秋のこころが ふりそそぎます
 

 
 さとうきびの一片をかじる
                ついぢ
 きたない子が 築地からひよつくりとびだすのもうつくしい、
 
 このちさく赤い花も うれしく
 
 しんみりと むねへしみてゆきます
 

 
 けふはからりと 天気もいいんだし
 
 わけもなく わたしは童話の世界をゆく、
 
 日は うららうららと わづかに白い雲が わき
 
 みかん畑には 少年の日の夢が ねむる
 

  みささぎ
 皇陵や、また みささざのうへの しづかな雲や
 
 追憶は はてしなく うつくしくうまれ、
  し き         まひでん
 志幾の宮の 舞殿にゆかをならして そでをふる
  びやくえ    み こ                あか
 白衣の 神女は くちびるが 紅い



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