八木重吉
「秋の瞳」

 
   蒼白い きりぎし


 
 蒼白い きりぎしをゆく
 
 その きりぎしの あやうさは
 
 ひとの子の あやうさに似る、
              はやて
 まぼろしは 暴風めく
 
 黄に 病みて むしばまれゆく 薫香
 

            ヽ ヽ ヽ ヽ
 悩ましい まあぶるの しづけさ
 
 たひらかな そのしずけさの おもわに
 
 あまりにもつよく うつりてなげく
 
 悔恨の 白い おもひで
 

 
 みよ、悔いを むしばむ
 
 その 悔いのおぞましさ
 
 聖栄のひろやかさよ
 
 おお 人の子よ
 
 おまへは それを はぢらうのか



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