八木重吉
「貧しき信徒」

    おどり
   


 
 冬になつて
 
 こんな静かな日はめつたにない
 
 桃子をつれて出たらば
くぬぎばやし
 櫟林のはづれで
 
 子供はひとりでに踊りはじめた
 
 両手をくくれた顎のあたりでまわしながら
 
 毛糸の真紅の頭布をかぶつて首をかしげ
 
 しきりにひよこんひよこんやつてゐる
 
 ふくらんで着こんだ着物に染めてある
 
 鳳凰の赤い模様があかるい
 
 きつく死をみつめた私のこころは
 
 桃子がおどるのを見てうれしかつた



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