比叡山横断

平成19年4月29〜30日


 朝5時半に起きて早雲城に向かう。7時10分早雲城発。2時間ちょっとで京都駅に着く。すぐに湖西線に乗り換え「比叡山坂本駅」下車。まず湖畔の公園に向かう。歩いて20分、連休のためか、琵琶湖には沢山の小舟が浮いて、釣りをしている。「あまりかっこよくない」ともっぱらの評判の石像に出会う。少しでも格好良く撮れるよう、下からの角度で何枚か撮影。

高架駅舎となっている比叡山坂本駅 公園はそのまま琵琶湖の岸辺となっている。
 坂本でのもうひとつの目的地である西教寺は、湖畔の公園とは全く逆の方角にある。バスもあるかもしれないのでまず駅に戻ることにする。行きとは違う道を歩いていたら、たまたま「坂本城址」と彫られた石碑の立つ、小さな公園に行き当たった。小さいながらも、趣のある場所となっている。先程の湖畔の公園こそが城跡だと思っていたが、城の中心はむしろこちらだったらしい。
手抜き石像を、精一杯かっこよく撮る。 坂本城址 坂本城址銘文

 湖畔の公園から駅まで歩いておよそ20分。駅に戻ったら、西教寺行きのバスがほんの3分程前に発車してしまったことを知る。しまった。時間を見ておけばよかった。次のバスまで40分くらいあるのでまたしても歩くことにする。西教寺まで歩いて30分。
広い車道ではなく、趣のある古い家や寺を通るマイナーな道を行ったためか、若干位置を見失ったりして、40分程かけて到着。
 山門を入ってすぐのところに、赤い布の敷かれた腰掛のある茶店があって、きなこ餅150円とあったので、頼んだ。時間も既に11時半。歩いて小腹が空いてきたところだったので、ちょうどよかった。湯呑に入った煎茶もついていた。地域の福祉施設が、知的障害のある高齢者の生きがいづくりも兼ねて店を開いているらしい。ついでに、持っている荷物をしばし置かせてもらって、起伏のある寺を一巡りする。寺は京都・滋賀の両府県の分水嶺の中腹にあるので、琵琶湖の眺めが良い。夜になったらきっと夜景が美しいことだろう。
西教寺山門 境内の藤の花

 山門前まで戻ってきて、もう一人前きなこ餅を頼み、その後、やはり歩いてケーブルカーの駅に向かう。
途中、石の表面が磨耗した石仏が100体くらいい、一箇所に集められ、置かれている場所に出会った。脇の説明版を読むと、江戸時代以来、農作業中に土の中から掘り出されたものがここに集められ、祀られるようになったという。坂本の城下町が滅ぼされた際、このあたり一体の石仏は、瓦礫と一緒に土の中に埋もれてしまったということなのだろう。
畑の一角に集められた石仏群 琵琶湖を望める高台

 ケーブル駅近くに、日吉神社という神社があり、関東に対しての文化的優越感を示したいのか、「日光の東照宮の雛形となった神社」と書かれていた。かなり大規模な神社のようで、拝観料を徴収していたが、先を急ぎたいので素通り。
日吉神社。正式名は日吉東照宮と言うらしい。
アピールの仕方がなんとなく大阪風。
ケーブル山麓駅

 降りて徒歩7分の根本中堂に向かう。中学の修学旅行以来だからもうかれこれ19年振りということになる。修学旅行の時は、一面を霧の中に杉の大木が霞んで見え、実写版水墨画の趣があって、少年心にも感動を覚えたが、今回は改正で、前回のような幽玄さは感じられない。当時の天気が快晴だったなら、また来てみようかという気は起こらなかったかもしれない。
 既に時間は午後2時近く。西教寺の茶店で「きなこ餅」を食べているので、昼飯は先にして、茶店で「葛餅」を食べる。美味い。甘い物続きだが、多分この後歩いているうちに消化されるだろう。
(ケーブル山上駅)からの眺め 葛餅

 境内に入ると、回廊の壁面に、全国から集められた習字の秀作が掲示されている。19年前もそうだったな、と思い出す。大きな本堂では、好奇心本位の団体観光客から、跪いて祈る熱心な信者まで幅広い人がいる。で、いろいろと手を変え品を変えた宗教サービスがある。一番安いのが、3倍サイズの割り箸状の木片「護摩木」。願い事を書くと、あとで僧侶が読経とともに焼却し、煙と共に願いが天に届くという趣旨のもの。300円。もうワンランク上になると、ガラスのコップの中にろうそくを立てたもの。「不滅の法灯」として、本堂の中で点火されるとあり、購入希望者は僧侶に声を掛けてくださいとのこと。こちらは2000円。昨年の「高野山」の時は賽銭のみでこうしたものは何も買わなかったが、今回は何か買ってみようと思い、御札と御守を買った。また、「護摩木」に「世界の宗教戦争がなくなりますように」と書いてきた。
最も有名な建物 しだれ桜 石庭のある建物

 さて、1時間あまりかけ、あたりの建物も一巡りしたところで、食事処で「比叡山そば定食」なるものを食べた。ベストタイミングだった。連休ということもあり、客足が多かったのだろう。自分よりしばらく後に入ってきた人は従業員に、「そばは終わってしまってうどんだけなんです」と言われていた。
 19年前の修学旅行で訪れたのは「根本中堂」を中心とする「東塔」エリアのみのため、メインの根本中堂一帯から離れた「西塔」エリアに足を伸ばす。メインの建物の根本中堂から外れると、観光客はぐっと少なくなる。既に夕方4時をまわっていることも大きいだろう。そろそろ寺の建物自体を眺めるのに飽きてきはじめたのと、4月29日から5月6日まで、「桜祭り」といいつつ、まだろくに桜に出会っていないので、桜に期待したのだが、あちらに一本、こちらの一本とちらほらあるだけで、たいしたことない。これは大いに期待外れ。桜以外の草花はどうかというと、そんなに珍しくはない「深山はこべ」が大量にあるのと、あとは、特産?の「叡山かたばみ」が、葉はたくさん、花は少々といったところ。下界にありふれた、単なるすみれ(ハート型の葉)は沢山あるが、葉が枝分かれして細い「叡山すみれ」は一度も見ず。
自由に撞ける鐘 叡山かたばみ

 西塔エリアの中心の建物「にない堂」と「釈迦堂」、観光客はすでに1人か2人といった程度。寺の鐘の中には自由に撞けるものがあるので、ちょっと撞いてみる。釈迦堂の前庭には、根本中堂への参道脇にもあったのと同様の、カラーでリアルな説法画と、解説文がいくつか立っている。この手の説法画、良く見ると面白い。19年前はもっと「敬虔な気持ち」でそれらの説法画に見入ったものだったが、いかんせん団体行動でゆっくり見ていないので、じっくりと時間をかけて味わう。これ(画像参照)などは最高。インドの高僧が修行している最中に、それを邪魔しようとする悪魔が、3人の美女に化けて、誘惑しようとしているところ。誘惑に負けたらどんな悲惨なことになるのかはさておいて、是非誘惑されたいものである。
 それから、(画像なし)○○という高僧が生まれたとき、天には紫色の雲が出て、金色の光が降り注ぎましたという逸話が紹介されていたのだが、これは、「北の国の建国者」がこの世に生まれた際の公式エピソードとそっくりだなと思った。きっと、手っ取り早く人を聖人に権威付けるための、使い古された手法なのだろう。
 最後に「信長の比叡山攻めの際、ゆいいつ戦火を免れた建物」と説明されていた阿弥陀堂に足を延ばした。片道15分くらい山道を歩いた先にあったのだが、建物が新しい気がする。多分、「その時焼けなかった」だけであって、その後の450年余りの間にオリジナルは失われてしまったのだろう。歩いた時間の割には得た物は小さかった。
 
美女に扮した悪魔軍団、高僧を誘惑するの図 阿弥陀堂。どうも再建されたものらしい。
 さて、そろそろ京都市内へのケーブルカーの終電時刻を気にしないといけない時間なので、ケーブル駅に向かって急ぐことにする。観光客と見られる人は、俺の前に女性が一人だけ。しかも山慣れしているらしく、早足で視界から消えてしまった。途中、「比叡山人工スキー場」なるものがあったが、既に倒産している。200メートルしかないようなリフト2基では、いくら大都市に近くても見向きもされなかったのだろう。
比叡山スキー場の残骸(ゲレンデハウス) 比叡山スキー場の残骸(ゲレンデ)

ケーブルの終電は記憶では6時半だったが、6時20分に現地に着くと、既に駅舎は戸締りがされており、無人の状態でケーブルの音だけがしていた。終電は6時15分だったのだ。間一髪アウト。しかも、この地点には、ケーブルカー以外の交通手段がない。駅の脇には「下山コース5キロ。約2時間」と書かれている。冗談じゃない。懐中電灯も持ってきていないのに、これから暗くなってしまう山道を2時間歩くなんて自殺行為に近いと思い、ケーブルカーのケーブルの動きが止まるのを待って、ケーブル脇の作業用の階段を歩いて降りることにする。50分後、無事山麓駅に到着。携帯の電池が切れて、下山中の貴重な画像がないのが惜しい。下りなのに、意外に体を使い、長袖のTシャツが汗で濡れたので、下山後着替えた。

ケーブル駅付近のつつじ ケーブル終電直後の、京都市街の眺め

 ほぼ真っ暗になった、ケーブル比叡山口駅と叡山電鉄比叡山口駅間の、昼間は風情があるであろう、公園の中の連絡通路を歩く。ケーブルと違って叡山電鉄は駅舎に灯がともっていて、営業中であることをうかがわせる。(といっても午後7時なので、当然といえば当然だが。)駅に近付いたとき、ちょうど発車ベルが鳴り響いて、俺の目の前で1両編成のチンチン電車が発車してしまった。幸い次の発車は15分後だった。
 このチンチン電車、整理券方式ワンマン運転の、文字通りチンチン電車で、多分鉄道ファンにはたまらないだろう。残念ながら写真はない。20分程揺られて終点となり、そこから事実上地下鉄となっている京阪電鉄線で二駅。三条で下車。前々から一度行ってみようと思っていたほこらに行ってみる。白川という川(恐らくは人工の水路)の東側にあるということと、市営地下鉄東山駅(三条からも至近)から徒歩3分ということは知識として準備してきたのだが、正確な位置まではネット上の地図には載っていなかったので、現地の案内板任せで探してみた。このあたりの地形はゆるい坂となっており、白川は勢い良く流れている割には、若干ドブの臭いがする。なかなか見つからず、川沿いを2往復したところで、たまたま自転車で通りかかった、近所の住民と思われるおばさんが、「何をお探しですか?」と声をかけてきた。もう少しで自力で見つけられるところだったので、正直なところ、出来れば声をかけて欲しくはなかったが、「でかい荷物を持ってさっきから辺りをうろつきまわっている、普段で見かけない男」という俺の立場を考えれば答えないわけにはいかないだろう。
 ということで、その後1分もしないで見つかった。で、折角来たんだからやはり写真を撮っておきたいという思いが募り、先程見かけたマクドナルドにて、夕食を兼ねて携帯の充電をすることを思いついた。
 レジの後ろに掲げられたポスターに、「4月30日まで限定。只今バリューセットを頼むと、もれなくマックフルーリーがついてきます。」とのことだったので、試しに頼んでみた。「マックフルーリー」は飲み物の代わりについてくるのかと思ったが、飲み物の他にタダでついてくるとのこと。ポスターの写真で見た感じは、シェイクかもしくはシャーベットのようなものだろうという印象を受けたが、実際は、「紙コップに入ったソフトクリーム」そのもの。しかも、味付けの基準がアメリカ人の舌を基準にしたのか、やたらと甘く、逆に喉が渇いた。セットの飲み物(ジンジャエールを選択)を、無糖のお茶にしなかったことを後悔した。
続く

つづく(工事中)