熊野古道歩き(平成17年9月11日


<経緯>
 せっかく名古屋まで来たのに万博だけで日帰りは勿体ないということで、
数日前、俺は名古屋駅発着の日帰りバスツアーを申し込んでいた。
「熊野古道日帰りハイキング」料金4500円。現地まで仮にJRで行った場合の交通費を試しにチェックしてみたら、片道でそのくらい掛かることが判明。しかもバスツアーだから乗換の面倒もなく、これはお得である。

<出発>
 集合してみると、大型バス一台に乗客わずか17人。常連客の話によると、普段はもっと混んでおり、今日は空いているそうだ。座席を広く使えてラッキーである。
 名古屋駅前から渋滞もなく、バスは高速道に入る。比較的風景の変化に乏しい三重県北部を順調に通過し、松阪市郊外で高速を下り、一般道に入る。まもなく、休憩地点である「道の駅おおだい」に停車。

<道の駅と農産物>
 朝、寝坊して、駅の売店の不味いサンドイッチしか食べていない俺はここでようやく、まともな飯にありつく機会を得る。「高菜寿司」(高菜の葉で酢飯を包んだもの。正しい名称は忘れた)と、「混ぜ御飯」を購入。それと、例によって地元農産物が売られている。聞いてみたら、夕方にはだいたい売り切れてしまう。冷蔵庫に入れておいてあげるから、買うなら今買った方がいいですよとのことで、椎茸と苦瓜とモロヘイヤを購入。山に囲まれたこの地域はきのこ栽培が盛んらしい。「畑しめじ」の大きな株も売られていて、買いたかったが、持ち帰るまでに他の荷物につぶされてボロボロになってしまいそうなので断念。

 休憩時間が残り少なくなり、急いで建物の外に出る。と、何か軽食のようなものが売られている。緑色をした、直角三角形の、生こんにゃくと思われるもの。とりあえず購入し、お金を差し出しながら、「これはこんにゃくですか?」と聞く。「ういろう」とのこと。駆け足でバスに戻って食べてみると、甘さ控えめで、よもぎの味がして、これが実に美味かった。
ういろう
<癒しの地> 
 車窓から、並木のように見える、一列に並んだ杉の巨木が見えた。神社の参道?と思って眺めていると、やがて鳥居が見えた。何百年も昔から、地域の人々によってこれらの巨木は守られてきたのだろう。観光地化とは無縁のようで、人気(ひとけ)は少なそうだが、巨木の醸し出す荘厳さがすごくいい感じ。
巨木の神社
道から川が見えた。コバルトブルーに透き通った水で、川底の玉石の一個一個が透けて見えた。本当に美しい川だ。その後も、何本か川を見たが、どれも湧き水をそのまま流したかのように美しかった。

 さらにしばらく山あいを走ると小さな盆地に出た。初めて訪れる、しかも車窓から眺めるだけなのに、異常に「なつかしい」と感じ、目頭が熱くなり、涙が溢れて落ちそうになった。この土地はなんというところなんだ?と、地名がどこかに記されていないか、窓の外の商店の看板やらを目で追っていると、交差点に「阿曽」とあった。
俺にとっての新たな聖地「阿曽」


<古道歩き>
 その後ほどなくして、バスは最初のハイキング地点に到着し、何人かの客を下ろした。峠を越え、旧紀伊国に入る。自分が降りる停車地点についた。自分の他の、若い女性から中年男性までの6人が下りた。バスの中ではそれぞればらけて座っていたので、そうは思わなかったが、6人は知合い同士だとのこと。唯一の独り者の俺が、「御一緒させてもらっていいですか」と聞くと、OKしてくれて出発。

 おなかの張り出た中年男性や、還暦くらいのおばさん(登山族のおばさんではなく、そこらにふつうにいそうなおばさん)を抱える6人組は、足取りは重い。特に、急坂に弱いらしい。俺の方は、途中の沢で、持ち帰り用に水をペットボトルに詰めたり、汗をかいたTシャツをゆすいだりとかのんびり彼等にペースを合わせて歩く。時々、他のハイカーとすれ違う。ここに来る前は、ここを歩く人は中高年の方々ばかりで、若者は滅多にいないだろうと想像していたが、実際のところ、意外と若者も多い。ごみ袋を持った大学生かと想像される若者の集団とも、一度ならずすれ違った。さすがに世界遺産ともなると、落ちているごみは皆無に近く、彼等の持つビニール袋も、ほとんどが空かそれに近い状態であった。



 2時間程で峠に到着(標高340メートル)。私は、昼飯の準備に入った6人組と別れ、近くの標高520メートル程度の山頂に寄り道をすることにする。ガイドマップによれば、片道20分とのことである。急坂が続き、最後は巨大な岩。山頂は360度の眺望が利いた。

山頂の巨岩を仰ぐ
山頂を示すプレート 岩の前の祠と、岩に登るはしご


 6人組は既に下りに入っているので下り坂は独り。途中の東屋で、道の駅で買った弁当「高菜寿司」を食べ、更に若干下ると不動尊。滝があって、不動明王(ヒンズー教のシヴァ神が仏教の守り神として取り入れられたもの。顔に怒りの表情をたたえ、背後に燃え盛る炎が描かれている。)が祀られているのだが、滝の入口には鳥居。典型的な神仏習合。

沢蟹。道のすぐ近くの沢にいた。(下の左の写真)

下り道。古道と沢 不動明王の滝



 そのすぐ先には茶屋があって、屋外に腰掛けるスペースがあった。歩く人が多いからこそ、こうした時代劇的なのんびりした商売が成り立つのだろう。
弁当を食べたばかりなので、大して腹はすいていないが、バスの時間には余裕があるので、団子を買い、お茶をごちそうになった。水のせいか、お茶がとても美味しかった。「空いているいらないペットボトルありますか?」と聞いてペットボトルに水を入れてもらい、もらった。わざわざありがとうございます。

山頂から見た尾鷲市の風景

 
 巨大な一対のくすのきに魅かれて、神社に立ち寄った後、昔ながらの銭湯へ。汗を流した後、尾鷲駅へ。尾鷲駅前に土産物屋のひとつでもあるだろうと、バスの時間30分前に到着したが、何もない駅だった。6人組とも再会。彼等は1時間以上前に到着し、手持ち無沙汰にしていたそうだ。

<帰路>
 定刻にバスは名古屋に向けて走り出した。途中疲れて居眠りなどしながら定刻5分程度の遅れで名古屋駅に到着。渋滞は全くなし。6人組に、「うらやましいですね。東京や神奈川では、休日の夕方に、都心方面に向かう高速バスが、渋滞に巻き込まれず、定時に到着するなんて考えられませんよ。」と言ったら、嬉しそうにしていた。

 名古屋駅構内で彼等と別れ、俺は新幹線(指定席取得済)までの時間、まずは名物「きしめん」を食べ、その後土産物屋を見て周った。愛知万博関連の土産物もあった。なんだ、無理に会場で買わなくてもよかったんじゃないか、と思った。

 そして、俺にしては珍しく、十分すぎるくらいの余裕を持って改札をくぐった。帰宅は夜11時半。

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