Episode-07【私、一人じゃないわ。でも、一人…】
【AM9:00】
いよいよ私の学校生活の再開ね。
朝礼の挨拶が終わると、さっそく退屈な授業が始まる。
授業は、思ったより進んでいなかった、ただ一教科・国語を除いて。
ううん、国語以外の教科は私の知っていることばかりだから
そう感じるだけかもね。
あ〜あ、日本語だけでも、ちょっとだけ真面目にやろうかな‥‥。
【PM12:20】
初めてのお昼の時間。
一人になっちゃったらいやだなって思ってたけど、
私の所に、理科の実験の時間に一緒だった娘たちが集まってきた。
おとなしそうな娘ばっかりの三人組。
沙織に香奈子に朋美って名前。初めて覚えた名前。
“あのぅ、私達とお昼、食べない?”
“ねえ、アスカさんって、どこに住んでいたの?”
“え〜っ!?ドイツ?とっても寒い所なんでしょ?”
“雪?やっぱり雪、見たことあるんだ。いいなー。”
いわゆる初対面の時の会話ってヤツよね。
でも、悪い気はしないわね。三人ともいい子みたいだし。
こんなわけで、私は最初のお昼休みも割と楽しく過ごすことができました。
【PM3:20】
キーンコーンカーンコーン
午後の授業も終了し、長い長い学校の初日は終わった。
一人で帰る帰り道は、なんだか寂しかった。
まだ一回しか歩いたことのない商店街を、少しきょろきょろしながら
私は歩く。見たことのない街の人々、見たことのない街路樹。
そして自分はというと…やっぱり見たこともない真っ白な制服を着ている。
“あのころに帰りたい”
シンジやヒカリと一緒に帰っていた頃を思い出して、悲しい
気持ちがわっとこみ上げてきた。
エヴァの操縦者としてクラスメートからも尊敬され、いつもヒカリと
一緒だったあの頃。シンジ、ケンスケ、トウジの3バカと、何かといがみ
合いながらも結構うまくやってたあの頃。
でも、もう二度と戻れないのよね。
今の私は、ただの転校生。
周りの人達から見たら、成績が良くて顔が綺麗なだけで、なんにも中身のない女。
私のこと、知ってくれてる人なんて、この街には一人もいないのよね。
当たり前だけど……。
そう思うと、なんとなくだけど涙が出てきそう。
でも、人前だから絶対泣いちゃダメ。変な娘だと思われちゃう。
私は、アパートまでの残り500メートルを、必死で走った。
バタン
思い切りドアを開けて駆け込んだ、自分の家の玄関には、当然出迎えて
くれる誰かもいない。
まだ見慣れないキッチンが、他人行儀に主人の帰りを待っていた‥。
“今日からは、ご飯の用意も洗濯も、一人でやらなきゃならないのね。”
新しい建物の匂いのするその空間で、私は寂しく呟いた。
【PM7:10】
やっとご飯ができた〜!
所要時間、約二時間!
スパゲティカルボナーラが今日のメイン。
さてっと、いっただっきま〜す!!
う゛、あんましおいしくない‥‥
【PM8:40】
狭いバスタブに慣れてないためか、お風呂に入ってもどうもすっきりしないわね。
あ〜あ、もういやんなっちゃう。
あっ、そうだ。ヒカリに電話しよう。
プルルルル プルルルル プルルルル プルルルッル プルルルル プルルルル プルルルル プルルルル ・・・・
もう留守だと判りきっていても、なかなか受話器がおけない。
独りぼっちで頼りたい時に頼れないって、泣きたい気分。
携帯に直接かけるのもなんとなく乗り気じゃなくって、結局私は電話を諦めた。
【PM10:20】
もうすっかり疲れた体をベッドに横たえ、私は部屋の電気を消した。
黒一色に塗り替えられた見知らぬ部屋の中というのは、寂しい感じというより、
どことなく恐い感じがした。
だからはやく寝てしまいたくて、私はぎゅっと目をつむった。
お休みなさい、ママ。
私は、今日はもう疲れたの。