Episode-12【心、重ねて】


 僕が目を覚ましたところは、保健室のベッドの上だった。

 まるで病院の中みたいな白い景色、知らない天井。

 僕が寝ているベッドのそばの椅子に、
 頬や手にバンソウコウを貼ったアスカが座っていた。

 今まで一度も見たことのない、らしくない表情で僕のほうを見ている。

 アスカが‥僕を‥‥心配してくれてるみたいだ。

 そう信じていいんだよね。






 シンジが目を覚ました。

 私を守ろうとして返り討ちにあって気を失って。

 ごめんね、シンジ。
 私、シンジのこと、少し勘違いしてたかも。

 格好悪いけど、格好良かった。

 本当に、本当に、ありがとう‥。





 “ねえ、アスカ”

 アスカに声をかけても、アスカはじっと僕のほうを見ているだけだった。

 ときどき天井やベッド脇の薬棚にちらちらと視線をうつしてる。

 体は大丈夫みたいだ。どこも壊れてない。

 僕はベッドから起きあがり、一言呟いた。

 「ごめんよ、言いつけ破っちゃって。その上、何にもしてあげられなくって。
 本当にごめん。」


 “『ごめん』ですって!?”

 “またそうやってすぐに謝る”

 “それが・・・内罰的って・・・”

 “バカ!!バカバカバカバカ!!!!”

 “ホントにバカ!!”

 ”シンジの‥‥バカァ‥‥”

 “バカ・・・バカァ・・・・・”

 声をあげて泣くアスカ。

 アスカがこんな風に泣くなんて。

 初めて見るアスカの泣き顔。
 しゃくりあげるその顔は歪んでいたけど、とても可愛いかった。
 どこにでもいるような女の子の、当たり前の素顔だと思った。

 アスカ、また無理してたんだね。

 バカだよ、アスカも。
 僕と同じくらい。

 でも、好きだよ。
 そんな、弱いアスカでもいい。アスカだから、いいんだ、

 「ごめん、僕‥‥なんにもしてあげられない‥‥」

 いつまでも号泣するアスカを、僕はそっと抱いた。






 私、声あげて泣いてる。

 人前ではもう泣かないって決めたのに‥‥。

 私は強い女じゃなきゃいけないのに‥‥。

 ‥‥そっか、
 もう、そんなことないのよね。

 シンジ、私のことを守ろうとしてくれた。

 私のために、無理してくれた。


 だから、今は我慢しなくていいよね。

 こんな私のままでも、シンジの前なら、きっと大丈夫。
 シンジ、見捨てないでくれるよね。私、信じちゃうよ。



 あっ、シンジが私を抱いてくれた。
 やだっ。私、そういうの‥‥な、慣れてないもん‥‥。

 でも保健室には誰もいないし、このまましばらく泣かせてもらおう‥‥。






 “シンジ‥‥お願い、お願いだから、これからも、ずっと一緒にいてね‥”

 『うん』

 ありがとう、シンジ‥。









 アスカは涙に震える声で、“ずっと一緒にいてね”と言ってくれた。


 力いっぱい頷いた。


 こんな僕を必要としてくれてるのなら。
 僕はアスカのために、精いっぱいがんばろう。


 これって、好きな女の子に必要とされてるって事だよね。

 幸せ者だな、僕は。

 なんか、涙が出てくるな‥。













 授業中だからだろうか。
 保健室には幸い、誰も入ってこなかった。

 二人は立ったまま、いつまでも抱き合っていた。



 いつしか涙は、シンジの頬にも伝わる。

 他人に本当に必要とされる歓びを、初めてかみしめるシンジ。
 欲しかった他人の温もりを、ようやく味わうことが出来たアスカ。


 感じるものに僅かなズレはあるかもしれない、
 だが、それでも今の二人が幸せなのは間違いないだろう。

 身よりのない二人だけど、もう、一人だと感じることはないのだから。


 アスカがシンジを、シンジがアスカを必要としている。

 今は、これでいいだろう。



 さしあたり、互いの温もりと匂いだけが今の二人の真実。





 そんな二人が交わした三度目キスは、涙の味だった。


         open my heart 第二部へ続く



【第一部の後書き】open my heart (1〜12)
97/07/26 15:24


 シンジ、アスカ、二人ともやっと第一歩を踏み出したね。
 やっと、自分の心を少しだけ、そう、
 ほんの少しだけ開くことが出来たね。


 それは、小さな変化。
 それは、小さな積み重ねの第一歩。

 でも、これが実際のところの心の補完だと僕は思うんだ、アスカ。

 補完計画なんかに頼らなくても、人は不完全ながらも多少は‘自分’を
 変化させることができる筈だよ。

 その鍵は、人と人との絆、愛情、友情。
 人同士の営みの中で、心を真摯にお互い通じさせることができたら、
 どんなにか素晴らしいことか。

 もちろん、LCL云々じゃなくて、お互いに支えあい、愛し合い、
(そしておそらくは時に)傷つけあい‥‥。

 このSSの、(匿名希望)ワールドの中のシンジとアスカには、
 友情とか愛情とか、そういうものを一生懸命育んで欲しい、欲しいんだ。


 はっきり言って、
 それでもまだまだふにゃふにゃなシンジと、
 自分以外はろくに見ていないアスカだけど。

 いいじゃないか、それで。
 今は、変わっていくことが彼らには大事なんであって。

 何も今すぐ100点とらなくていいんだからさ。

 アスカ、シンジ、頑張るんだよ。
 俺もがんばるから。

 まだまだ辛いこと、いっぱいあると思う。
 でも、負けないでね。

 あの地獄を生き残った二人なんだ。
 無理な事なんて、ないよ。


 最後に。 シンジ、アスカ、大好き。




 いろいろとダメな所、あったと思います。
 誤植その他、あったと思います。

 そのうえ、ワンパで先の見える展開と言われたら、ぐうの音も出ません。



 つまんない思いした方、裏切られたと思った方、いらっしゃると思います。

 この場を借りて、そのような事で嫌な思いをした皆さんに謝っておきます。

             ごめんなさい。(^^;;


 それでも、ここまで読んで下さった方、本当にありがとうございました。


 続く第二部では、中学時代の幾つかのエピソードと、
 高校生活の最後から大学入学の時期までを書きたいと思ってます。


 さらに、少しづつ、そして迷ったり、時に道を誤ったりしながらも成長していく
 アスカを書けたらいいな、と思っています。
 シンジ君も多少は書くかもしれません。


 青葉さんとマヤさんはちょっと‥(秘密)
 日向さんは‥‥どうしよう。(爆)


 とにかく、(気の向いた方、)どうかこれからも
 このワールドに付き合ってやってください。

 2004年注:内容はまあ、初心者アスカ馬鹿の書いたSSなんですから
 しようがないでしょう。盛り上がるところなんで、許してさしあげよう
 じゃないですか。でも、でもですね。
 なんですか!?このあとがきは!?こんなに痛い文章を、
 ボクはniftyやネット上に平然と曝していたんですね。ご先祖様に、
 顔向けできません。
 ああ、鬱だ....。






 →上のページへ戻る