こんばんは、匿名希望です。続けます。
 今回、ヒロイン(爆)は出てきません。

 で、トウジ、シンジ、そしてケンスケが登場人物です。
 3人動かしているんで、処理落ち気味です。(T-T)
 ご了承下さい。




 Episode-17【それぞれの選択、それぞれの道】

 キーンコーンカーンコーン

 「さあって、メシ、メシ‥‥と。
  あれぇ?おばさん、今日は遅いなぁ」

 窓から校庭を見おろしながら、ケンスケは小さくため息をついた。
 いつも麓の街からやってくるパン屋のおばさんのリアカーが、時間に
 なってもなぜか来ていなかったからだ。

 「‥‥そやな。パン屋のおばさん、今日はなにしとんのやろか?」

 「まったくだよな。
  こちとら、たて続けのテストで腹、減ってるってのに。」

 ケンスケは、腹を手で軽く押さえてみた。
 胃袋が、その正直さを間抜けな声で主張している‥‥。


 「あの、鈴原 君‥」
 「あ、ああ、委員長‥そんなら、ケンスケ、わしら、行くわ」

 「ああ‥‥」

 自分から離れていくトウジとヒカリの姿を一瞥した後、ケンスケは
 教室の中を見渡してみた。
 たくさんの黒い髪の中、ひときわ目立つ栗色の髪に目がとまった。
 アスカはシンジと向かい合わせになって、ちょうどお昼を食べ始めた
 ところのようだ。

 入院していた頃と比べると、アスカはみちがえるほど元気に、そして
 素直になったと彼は感じていた。
 そして転校した学校でいったい何があったのか、その後
 突然シンジとおおっぴらに付き合い始めた彼女。
 笑顔でシンジとおかずを交換する姿が、とても幸せそうだ。


 「お〜い、ケンスケ、飯、買いに行こうぜ」
 自分の名を呼ぶクラスメートの声に、ハッと我に返る。
 もしやと思って再び外を見てみると、案の定、学校の玄関口に
 見慣れたリアカーが止まっていて、既に沢山の生徒達による
 争奪戦が始まっていた。


 「ああ、俺もすぐに行く。」

 “ま。俺は俺、あいつらはあいつらさ‥”

 教室を出て友人と廊下を走りながら、ケンスケは心の中でそうつぶやいてみた。



    *        *        *


  夕暮れ時。

 茜色に染まる森の中。
 三人の男子生徒の帰り道。

  かつて“3バカトリオ”と呼ばれていた彼らが全員揃って家路を
 行くのは、本当に久しぶりのことだった。
  ここ最近はシンジはアスカと、トウジはヒカリと、そしてケンスケは
 クラスのミリタリー仲間と帰るのがお決まりになっていたが――今日は
 ヒカリとアスカ、それからケンスケの仲間達が進路面談で居残り
 だったので、三人組が久しぶりに復活したのである。

  激動の一年間で大きく成長した彼らも、見た目は殆ど変わらない。
 道すがら、あれこれと話し合う三人‥‥。
 今日の試験を話題の中心に、先ほどから話に華がさいていた。


 「‥‥なんや、そんなら結局今日の試験に自信もっとるの、惣流だけかいな!」

 「仕方ないさ、今日の理科、無茶苦茶だったろ?
  シンジはどうだったのさ?あの力学の問題?」

 「あれはちょっと‥自信ないなぁ。」

 「まあ、シンジは昔から物理が苦手だったからさ。いちおう
  答えを書けるようになっただけでも、大分マシになったよな。」
「そやそや。」
 「うん、早く二人に追いつきたいなぁ。」

 「おおっ!シンジの奴、言いよるなぁ!!!」

 「そんなことより‥さ‥‥シンジ。」

 「何?」

 「心臓のほう、もう大丈夫なのか?
  アスカが掃除ん時に心配してた。まだ、治ってないのか?」

 「ううん。この前病院に行ってきたときに、もう全然大丈夫って
  言われたよ。体育系以外なら、部活動とかだって構わないって。」

 自分の心臓について、シンジは笑顔で返答した。


「そっか、よかったな。アスカの奴、シンジのことだと心配性だからな。」

 そんなシンジに、ケンスケは祝福の言葉を贈る。

 エヴァパイロットとして世界を救ったシンジ、
 友人として楽しい思い出をたくさんくれたシンジ、

 そして‥‥。


「ワシの右足かて完璧に動きよるし、ほんま、最近の医学っつうのは
 ありがたいもんやな。」

 半ば強引に会話に割り込んだトウジの言葉に、シンジとケンスケは
 視線を黒ジャージの下半身に移す。

「じゃあさ、トウジのほうはスポーツとかは大丈夫なの?
 僕はまだだめみたいだけど。」

「リツコさんが昔、ダメかもしれんってゆうとったけど、
 この調子ならええんと違うか?」

 最新の遺伝子工学技術を流用した生体義足は、それが作り物である
 事を見る者に殆ど意識させないほど良くできていた。

「そっか‥。よかったよ、足がちゃんと治って」

「まあ、それは気にせんでええ」

「うん‥‥」

  そこで会話が途切れ、三人の間に短い沈黙の時が訪れた。
 森の鳥達のさえずりに混じって、ふもとの町工場の
 サイレンがかすかに聞こえてくる。

 時刻は4時をまわったようだ。


「ねぇ‥‥ケンスケは、大丈夫なの?」

「ん?俺?
 俺はシンジやトウジと違って、エヴァに載ってないからさ。
 大丈夫だよ。」

「でも、ケンスケ最近、あんまり元気ないっていうか、
 顔色悪いって‥‥いうか。まさか病気とかじゃ、ないよね」

「あ〜、ああ、ああ。顔色悪いのは仕方ないよ。
 今、親父の端末から色々引き出したり面白いことがあってさ、
 寝る間も惜しんであれこれやってるんだよ。」

  シンジの邪気のない質問に、ケンスケはキーボードを叩く仕草を
 見せて作り笑いを浮かべた。
 自分の体調を心配してくれる自分のことを、ケンスケがとても嬉しく
 思っているように、シンジの目には、映った。


「そっか、大変そうだけど、羨ましいな‥」

「ああ、大変だよ。でも、今やっていることは俺的には
 やりがいのある事なんだよ。
 もしかしたら『シンジ達は頑張ってるのに、俺だけが』って
 のもあるかもね。こんなに夢中になっている理由には。」

 シンジには、必至に打ち込めるものがあるケンスケが羨ましい。
 違法な情報収集とはいえ一つのことに我を忘れて取り組んでいる
 ケンスケを見ていると、‘僕は、まだそういうの、ないな’と
 思わずにはいられなかったし、アスカと遊んでばかりの自分に、
 時々後ろめたいものを感じることもあった。

 シンジとケンスケがそうして話している間、トウジは見飽きたはずの
 森の中に視線を彷徨わせ、何かを考え込んでいる‥‥。
 話に夢中な二人は、トウジの様子に気付かない。


「ケンスケ、がんばってね。」

「ああ、まあ見てなって‥‥おっと、このままだと定期巡回に遅れるな‥
 わりい、俺、急ぐんで、先、帰るわ。じゃな、二人とも。」

「行っちゃうんだ、ひさしぶりだっていうのに。」
「いくんか、ケンスケ!!」

「そんじゃ、また明日な〜〜!」


 後ろも振り返らずに本当に急いで走り去っていくケンスケを、シンジは
 ぽかんとして見ていた。

 「ケンスケ‥いっちゃった」


 細い森の道には、トウジとシンジだけが残された。








  ケンスケが去ってからというもの、二人は長いこと無言のまま
 歩きつづけていた。

  シンジは何度となくトウジに話しかけようとしたが、彼が
 何かを考え込んでいるような様子が気になって、結局自分から
 話しかけることは最後までできなかった。

  ややあって鬱蒼とした森を抜け、二人はアスカとシンジのマンションに
 たどり着いた。
 森を抜けて久しぶりに覗く空を、玄関の前で立ち止まったシンジが見あげる。
 彼らの頭上には、灰色とオレンジ色のまだら雲が広がった、黄昏時の空が
 広がっていた。遠くのほうからカラスの鳴き声が聞こえてきて、もの悲しい
 雰囲気に拍車がかかる。


 「じゃ、また明日。」

 シンジが玄関のドアを開けようと玄関に鍵を差し込んだ、その時。
 トウジの“なぁ、シンジ”という声に突然呼び止められ、彼は
 動作を停めた。

 「えっ?何?」
 彼が振り向くと、真剣な顔つきのトウジがそこにはいた。


 「お前、幸せやな?」

 「え?どうかしたの?トウジ。」

 「真面目に聞いとるんや、シンジ、今、幸せやな?本当に」

  トウジの口からでてきたのは、観念的だがしばしば使われる、
 ごくありきたりな台詞だった。
 だが、シンジを見つめるトウジの視線には、安っぽい答えを赦さない、
 不思議な強さと鋭さがあった。

  周囲の空気が緊張を帯びていることに、シンジはすぐに気づいた。
 彼は軽くツバを飲み込み‥‥そして、ゆっくり口を開いた。


「僕は‥幸せだと思う。トウジやケンスケ、それにクラスの仲間と一緒だし。」

「‥‥。」

「それに‥‥ノロけちゃって悪いけどさ、
 僕は自分がアスカを好きなんだって知って、それから付き合い
 はじめて…やっと僕は幸せって何か、少しわかったような気がするんだ。」

「‥‥。」


「自分だけ幸せになろうとしちゃいけない。
 アスカを幸せにしてあげたいって思わないと、なんかだめなんだって。」

「優しくして欲しい、大事にして欲しいって思うだけじゃ、いけない。
 優しくしてあげて、大事にしてあげなきゃ、僕もアスカも満たされないって。」

「そやな。」

「自分ばっかりっていうのが、一番いけなかったんだって気づいたんだ、僕は。
 だから、僕は幸せを知らなかったって。」

「でもさ、僕がこう思うのは、ただ、今が幸せだからっていうだけなのかもしれない。
 上辺だけのもので、ホントの僕はやっぱり自分の事しか考えてないのかもしれない。
 けど、今はこれでいいと思うんだ‥。
 アスカがいて、トウジやケンスケ達に囲まれて。
 こんなに幸せなのは、たぶん生まれて初めてだから。」

 そこまで一気に話し、シンジはもう一度頭上を見上げた。
 トウジも、それに連られるように空を見上げる。

 いつのまにか、長くて白い飛行機雲が空を横切っている。

「そうか‥なあ、シンジ」

「何?」

「惣流を、今と同じに大事にしてやれや。お前自身の為にもな」

「え?」

 意外なトウジの言葉にシンジはすぐに返答が出来ない。

 そんなシンジに構わず、トウジが続ける。

「お前の事を、惣流がいつも見とったって、昔、ケンスケがゆうてな。
 わしは、あの頃はそんなこと、気付きもせんかったが、
 今思い返すと、ようわかるんや、それが。」

「まあな、わしも女の気持ちゆうのは、今でもようわからん。
 ヒカリも、何度も泣かしてしもうた。それでも、そんなわしでも、
 一緒にいてやると、あいつは喜んでくれるんや。」

「惣流のこと、それと、お前ん事、わしかて多少は知っとるつもりや。
 お前ら、いろんな意味で、似合いやと思う。
 長いことやってけると思うわ、ホンマ。」

「わしは、ヒカリに嫌われるまで、あいつをとことん大事にするつもりや、
 わしを好いてくれたんや、こたえてやらな、男やない。」

「そやから、お前も、惣流を、邪険にしたらいかん。
 どんなに腹立つことあっても、簡単に投げたらいかん。」

 そこまで話すと、トウジはシンジに背を向け、
 “こんな事言うの、わしらしくないかもな”と静かに笑った。

  シンジは、玄関のドアを開けることも忘れ、それらトウジの言葉を
 頭の中で何度も反芻した。いつもとぼけたトウジの言葉とは思えない、
 ジンと来る言葉の数々が、心の奥底にゆっくりと確実に浸透していく。

 「大事にするよ、アスカを。
  だから、トウジ達も。」

 シンジは力をこめて言葉を返した。

 「ああ。それでええ。じゃ、またな。」

 答えるトウジの声にも、芯があった。

 「うん。また明日」

 シンジは玄関に立ったまま、去っていくトウジの姿を、
 ずっと見ていた。

                         to be continued



 ここまで読んで下さった方、ありがとうございます。


 これは‥その‥‥まあ、そういう事でというか‥‥。(^^;;


 えーと。
 出来が悪くてごめんなさい。
 3キャラ以上動かすと、パワー不足で処理落ちするんです(爆)

 ああ、もっと実力があればいいのに。

 とにかく、こんな感じです。

 シンジ‥アスカ‥お前ら、友達大事にしろよ。

 では、失礼します。


 2004年注:文章とあとがきの厨っぷりは目を覆わんばかりですが、ここで
 トウジとシンジとケンスケが行ったやりとりというのは、現在の私個人の
 恋愛に関するものの考え方にも生き残っています。読み直してみてよぅく
 判りました。やはり、エヴァンゲリオン時代というのは、現在の私の
 原点なんだな、と思い返すことしきり。 以上、完全なる蛇足でした






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