1ST STORY:
save your life





 第1話:救出


1.Singi Ikari

 プシュウウウウウ‥‥

  シンジは、地面に転がっている初号機のエントリープラグのハッチを開けた。
 差し込む陽光が眩しい。戦いが終わったセントラルドグマは、真っ白な朝の
 色彩に支配されていた。

 “いけるかな‥‥”

 開いたハッチから身を乗り出し、地上との落差を見て、安堵する。
 地面からの高さは、30センチそこそこといったところだろう。
 戦いの最中に怪我をした足を庇いながら、シンジはプラグを這い出した。
 激痛を覚悟の上で、地上に向かってジャンプする。

 ドタッ

 「ギャッ!!」

  やはり、シンジは絶叫した。
 僅かな跳躍は、自分自身がどれほど傷ついているのかを知るには十分だった。
 量産機との戦いによって傷だらけになった骨格や内臓が、悲鳴をあげる。
 地面に這いつくばり、彼はしばらく悶絶して転げ回った。

  やがて、痛みがある程度収まると、少年は、もぞり、もぞりと地面を這い始めた。
 尺取り虫のように体をよじらせ、軋む痛みに時々気を失いそうになっては止まり、
 しばらくするとまた動く。
 彼が目指す先には、摩擦熱で真っ黒に焼け焦げ、すっかりひしゃげてしまった
 もう一つのエントリープラグがあった。

 “アスカはきっとまだ生きている。生きて、助けを待っている”

 そう信じる事、思いこむ事だけが、瀕死のシンジを動かす力の源となっていた。



     *       *       *



  ――どれだけの時間を費やしたのだろうか。
 それはシンジ自身にも分からない。ともかくも、死に物狂いの努力によって、
 ようやくシンジは、救うべき人の間近にたどり着いていた。


 “大丈夫かな‥‥”

  シンジは蹂躙される弐号機を見たときの事を思い出した。
 エヴァ量産機によって喰い殺されようとしている弐号機を見た時、
 シンジは迷わずアスカの命を救うことを選択していた。
 素早く弐号機の周囲から獣共を追い払った後、弐号機に残ると言い張る
 アスカの意志を無視し、いちかばちかで彼が選んだのは、弐号機の
 エントリープラグを無理矢理引き抜いて、戦場から彼女を遠ざけるというもの
 だった。アスカを救う為と信じた自分の選択が正しかったのか、シンジには
 自信が無かったし、それだけに怖かった。プラグを引き抜くときの衝撃で、
 アスカが死んでしまっていたら‥‥そんな厭な事も考えてしまう。

  思った以上に破損した、弐号機のエントリープラグの無惨な姿は、彼を
 ひどく躊躇わせた。


 “だけど‥‥やれる事はやったんだから‥”

 幾らかの時間を要して嫌な考えを頭から追放し、シンジは、プラグの外板に
 もたれ掛かりながら、無理矢理立ち上がった。
 そして、残った力最後のを振り絞ってハッチのドアを回した。
 動物の断末魔のような嫌な音を立て、ハッチは開いていく。




 2.Sohryu Asuka Langley


 真っ暗だった世界に突然変化が訪れた。

 ハッチが開いて射し込む朝日は、ほとんど真っ白に近かった。
 その眩しいバックライトを影に、誰かの姿が見える。

 誰だろう。戦自の兵士とかだったら…どうしよう。
 きっと殺されるわね、私。



「アスカ‥アスカ‥生きてるよね?」

 だけど、私の予想はもっとラッキーな形で裏切られた。私を気遣う声がする。
 嫌い、好き、わかんないけど、でも、この声を聞くのは随分久しぶりのような
 気がする‥。

 もしかして‥‥

 シンジ?

 シンジ!

 「‥‥‥!ごふっ‥」

 声が出ない。

 かわりに嫌な感触とともに口から出てきたのは、真っ赤な血だった。
 おなかが、目が、今もすごく痛い。

 頭も何だかくらくらする。

 「生きててくれたんだ」


 私は精いっぱい頷いてみせた。

 「よかった‥。」
 シンジの声も、とても弱々しい。
 白かったはずのカッターシャツは、今は赤色と茶色と黒色で滅茶苦茶。
 顔色も、すごく青いわね。
 今にも死にそうね、と自分のことを棚にあげて私は一瞬考えた。

 それでも‥‥一応、生きてる。
 シンジも、私も。
 シンジが無理して優しい視線を送ろうとしているのがなんとなく分かった。
 バカ。無理しちゃって。
 あんたも死にそうなんでしょ?それでも私を気遣うの?

 ママから私を引き剥がしたことへの恨みよりも、地獄の戦場から私を守って
 くれたこと、ファーストと一緒にバケモノ共を倒してくれたことが、
 私には嬉しく思えてならなかった。

 あの馬鹿シンジが、あの、シンジが!?
 助けてくれた。命を賭けて、ボロボロになりながら守ってくれた。

 私が欲しかったのは、これかもしれない。そうよ、これが欲しかった。
 物心ついたときから、ずっと。


   *       *       *



 5分後。
 私達は力を合わせて、やっと遭難用の照明弾を打ち上げた。
 ピューンという音を立て、グリーンの火球が空高く舞い上がる。


 「これで、救助が来て‥‥きっと僕たちは助かるよ。」

 緑色の光を見て安心したのか、シンジはそう言い残して私の目の前で
 ぱたりと倒れた。きっと、張っていた気が抜けたのね。

 “でも、ホントに大丈夫!?”

 心臓の位置に胸を当てると、弱々しいけど、期待した音が聞こえてきた。
 よかった、気を失っただけみたい。

 “ありがとう、シンジ”

 私はよろめきながらシンジに歩み寄り、自分の膝の上にシンジの頭を乗せた。

 汚れ、疲れ果てた彼の顔。口の周りは、私と同じで血を吐いた跡が残ってる。
 それでも、シンジの顔はとても満足げで、誇らしげに見えた。


 “また助けられたわね‥‥あんたなんかに‥‥でも‥‥”

 “本気だったの?‥‥本気よね‥‥信じていいのかな‥‥”

 “だけど‥‥今度‥‥私を捨てたら‥‥許さないから‥‥”

 胸にあふれてくる、気持ちに勝てない。
 もしかしたら、安っぽい気持ちなのかもしれない。
 でも、素直になるなら、これを信じるしかないと思う。


 “まだ、全部は好きになれそうにないけど‥‥‥”

 私は、血がこびりついたシンジの唇に、そっと自分のそれを重ねた。
 血と土の味がした。
 たぶん、まだ全然好きでないシンジに、衝動的なキス。
 それでも‥いいと思う。
 ファーストキスの時と違って、イヤな感じはしなかった。
 お礼、なのかな?
 それとも、それ以上のキスなのかな?
 まあ、今はどっちでもいいや。


 生きてさえいれば、またいつかキスはできるわよね。

 そうよね。生きていれば、一緒にいられるもの。
 好きだって言って貰うチャンスなんて、これからいくらでもあるわ。
 シンジは‥‥私の事、好き。
 今は、自分の感覚を信じたい。
 やっと、本当にやっと、今度は信じることができそうな気がするのよ。
 私が本当は待っているものを、きっとくれる。

 体の痛みも、ママのことも不思議と気にならなかった。
 私は、シンジの顔をずっと見ていた。



 バラララララ・・・・

 救助のヘリコプターのローター音を聞いた私は、安心して、
 シンジの手を握ったまま再び目を閉じた。



3.Rei Ayanami


 結局、私は生き残ってしまった。
 目の前には、よく見慣れた年上の男が横たわっている。

 碇司令。
 私を作った人。私を呼んだ人。私を使おうとした人。
 あの人達を裏切って、それで世界の‘終わり’を防いだ人。
 ‥私の意志を知ったとき、うろたえた人。
 それでも最後の最後に、私と碇君を守ることを選んで死んでいった人。

 でも、本当に消えるべきだったのは私の方だったと思う。
 碇司令が死ぬよりも、私が死ぬべきだったのよ。

 私はどのみち消されるから。

 私にはわかる。
 私は、消えなければならない。
 すべてのエヴァとともに、私は闇に帰らなければならない。
 補完計画が無くなった今、私達はもう、人間にとって要らない存在だから。

 死ぬのはいや。
 生きたい。
 碇君と一緒に生きたい。
 せっかく残った命、無駄にしたくない。

 でも、それは赦されない。私は、これから死ななければならないだろう。

 そう、死ぬしかないの。

 それが、みんなのためだから。



 『おおい、いたぞぉ』

 野太い声に振り向くと、オレンジ色の防護服に身を固めた男達の姿が見えた。
 私のほうに走って来る彼らは、自動小銃を持っていた。

 「君が、綾波 レイだな」
 「はい」

 正直に答えた。
 嘘をついても、どうせ無駄なんだから。


 「君を、拘束させてもらう。いいね。」
 「はい」

 手錠をはめられて、私は大きな車に乗せられた。
 全裸だった私に、緑色の毛布が渡される。これから厭な所に連れていかれる予感。

 ただ一つ、はっきりわかること。
 それは、“もうすぐ私は死ななければならない”と言うこと。
 でも、もう一度だけ、碇君に逢いたかった。
 逢ってから死にたい。

 一目!
 一目でいい!!

 碇君にもう一度会いたかった‥‥


to be continued



“save your life” is just a part of SIROKUMA world.

Yes!!

I must write the happines of them.




 ご覧の通り、文章の質はかなり粗悪です。特に、この状態はopen my heartの
 前半部くらいまで続きます。なにぶん昔のものなので、そこら辺はダメです。
 まあ、あくまでオマケディスクって事ですいませんです。(^^;

 2004注:幾らか書き換えましたが、所詮は粗悪品の上に粗悪なメッキを塗った
 だけのような気が。この、save your lifeはあまりに出来が粗悪ゆえに、仕方なく
 それなりきにオーバーホールして、汎適のシロクマさんにファイルを預けました。



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