終章:こころ



 少女は「一緒にいたかった」と最期に言い残して、
 手術室の扉の奥に消えていった。

 手術が始まって10時間は経っただろうか。
 もうじきすべて終了するだろう。


 彼女は死を充分に受け入れる事が出来ないまま、死んでいった。
 自分の可能性を口にしながら、生きて戻ることのない門をくぐっていった。

 昨日、私は彼女の生についてあれこれと考えていたが、
 やはり、あまりに……




 バタン

 突然の大きな音に、私は思考を中断された。
 手術室の金属製の扉が開き、移動式のベッドが勢いよく飛び出してくる。


 シンジ君だ。

 モニター心電図からの、ピッピッ、という規則正しい音を残して、
 彼を乗せたベッドはたちまち私の目の前を通り過ぎていった。


 さらに十五分後。
 手術室の隣の部屋から第二内科の河田医師が出てきた。
 とても疲れた表情が印象的だった。

 「手術は成功です。碇君の方は、順調なら2、3カ月で退院できます」
 
 彼は、おめでとう、とは言わなかった。


 「そうですか、ありがとうございます」

 「これが、あの二人に関する全ての書類です。」
 そう言うと、若い医師は小脇に抱えていた2組の分厚いカルテ綴じを私に
 よこした。

 「すべて、ネルフのほうでうまく処理して下さい。当院からの
 請求書なども一緒に入ってます。その辺も、どうかよろしくお願いします」

 「はい。責任を持って処理させて頂きます。あの、それから…」

 「ええ。御遺体は、霊安室に移してあります。これから案内します。」

 私は、病院の地下に案内された。


 「こちらです」

 医師がステンレス製の仏壇開きの扉を開けると、中から冷たく乾いた
 空気が流れてきた。


 霊安室の中央の寝台に、彼女は横たわっていた。
 いつもにもまして白く、透き通っている彼女の肌。

 そして、顔を覆っている白い布の下には、かつての能面のような
 無表情の顔があるだけだった。


 “彼女は、再び天に還ってしまったのか”


 死ぬ前のレイの叫び声が思い出された。
 あの時の光景は、おそらく一生忘れることはできないだろう。


 目の前に横たわるレイの無言の叫びに対して、
 私は涙で応じることしかできなかった。


 目前の死者の冥福を祈って、私は静かに手を合わせた。



                              fin        



Thank you very much for reading 1st story“save your life”.

The last angel in the world has disappeared.

Yet・・・

Yet,she did save the boy, saved much lives.

To be continued to the 2nd story“open my heart”.






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