(2)細胞の浸透圧と原形質分離

<準 備>
オオカナダモ(またはユキノシタの葉、ムラサキタマネギの鱗茎葉、ツツジやサツキのなどの花弁)、ブドウ糖およびショ糖の5%、10%、15%、 20%各水溶液、顕微鏡、検鏡用具、はさみ、ペトリ皿
<実 験>
<1>ブドウ糖、ショ糖の各濃度の水溶液をそれぞれ別のペトリ皿にとってふたをし、つぎに、オオカナダモの葉を切り取って、2〜3枚ずつ各濃度のそれぞれの水溶液にひたし、ふたをする。
<2>約10分後、オオカナダモの葉をそれぞれの水溶液からとりだして、スライドガラス上にのせ、その葉がひたっていた液を1滴滴下してカバーガラスをかけ、手早く検鏡する。
<研 究 @>
@ブドウ糖およびショ糖の各濃度の水溶液にひたったオオカナダモの葉の細胞、とくに原形質の状態をスケッチし、原形質分離をおこしているかどうか、また、原形質分離の程度を下のような 記号を用いて表1にまとめよ。
【表1 原形質分離の程度】
濃度5%10%15%20%
ブドウ糖        
ショ糖        

−  原形質分離をおこしていない。
±  ごく一部の細胞にわずかに原形質分離が見られる。
+  ほとんどの細胞がいちじるしい原形質をおこしている。
++ すべての細胞がいちじるい原形質分離をおこしている。
<研 究 A>
 原形質分離をおこす濃度を、ブドウ糖溶液とショ糖溶液とで比較して見よ。 相違があればその理由を考えよ。<以上、某社「生物教科書」より引用>

 この実験のねらいは、分子量の異なる2種類の物質、すなわち、ブドウ糖とショ糖で原形質分離の起こり方 にどう違いがあるかを調べようというものである。しかしながら、原子量(H=1、C=12、O=16)も教えず、ブ ドウ糖(C6126)やショ糖(C122211) の化学式や分子量(ブドウ糖=180、ショ糖=342)も解らず、に、どうして2つの物質の違いを理解できるの だろうか。ましてや、モルの概念も教えないのでは、この実験は到底理解し得ない。化学の教科書(某出版) の記述では「浸透圧の大きさは、溶質の種類とは無関係で、一定体積の溶液中の溶質粒子の数(物質量、モル 濃度)に比例する。」とあるが、上の実験では、モル濃度ではなく、パーセント濃度で実験をしているので、 それこそ、ブドウ糖とショ糖で実験結果が違った時、生徒はこれをどう説明できるのであろうか。一定 体積中の異なる物質の2種類の同一%溶液の溶質分子の数が同じかどうかをまず考えなければ、この実験は 成り立たないのである。科学的厳密性は問わなくても、生徒の科学的思考が成り立つような実験に作り直さ ねばなるまい。

<練習問題>
次の各設問に答えよ。
(1)植物細胞の中の浸透圧は、どうやれば求められるか、その方法を答えよ。
(2)生理的食塩水は、何%か?海水の濃度に比べてどうか?
(3)生命の起源は海の中と言われるが、そうだとすると(2)の矛盾をどう説明するのか?
<解答>
(1)色々の濃さの非電解質のショ糖液に浸し、原形質分離の起こるか起こらないかの境目の濃度を 調べる。これを限界原形質分離というが、植物細胞の浸透圧(P)は、限界原形質分離の時のショ糖液 のモル濃度(C)が判れば、次式から求めることが出来る。
P=RCT
(但し、Rは気体定数(0.082)、Tは絶対温度)
(2)動物の種類によって多少異なるが、人の生理的食塩水の濃度は、0.9%である。海水の平均濃度は 約3.2〜3.5%と言われるので、人の体液の浸透圧は海水のそれよりもだいぶ低い。
(3)生命の起源を海の中とすると、海水と淡水の混じり合った汽水域で、生命の誕生が起きたと考えれば、 矛盾を生じないだろう。

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