(4)花粉の発芽(花粉管の伸長)

 僕の子どもが、まだ小学生の頃の話である。次女が、近くの田んぼに捨てられていた子犬を抱いて 帰ってきた。見るからに、みすぼらしく貧弱な犬で、それほど飼いたくは無かったのであるが、かな り前に死んだ愛犬の小屋が残っていたので、次女の希望を聞き入れて、飼うことにした。
 犬を飼うと、朝晩の散歩が日課となる。これは、飼い主の健康維持の為にも良い運動となる。しか しながら、この犬は、散歩の途中に出会う、ご近所の犬と喧嘩をして、勝ったためしがないという、 雄(オス)なのにも拘わらず、弱くて、意気地無しの、情けないほど虚弱な犬であった。飼っていて、 気が付いたのであるが、毎年、二月から四月にかけて、犬の身体に変調をきたすのである。目やにが 出て、無闇に涙や鼻水を流し、やたらとくしゃみをしたり、しきりに咳き込んだりするのだ。丁度、 この時期は、近くにある高尾山のスギが花粉を飛ばす 頃でもあった。
 東京都生物教育研究会の会合の席上で、このことを話題 にして、「もしかすると、花粉症の犬なのかも知れない。」と、参加者の皆さんに話をした。その後、 東京の国立科学博物館(筑波 研究施設)で、日本花粉学会の集まりがあり、その席上、著名な花粉学者の幾瀬マサ先生(東邦大学名 誉教授)と、知己を得ることが出来、更に、実践生物教育研究会会報の「実践生物教育研究」(No.22)にも、 ご寄稿頂くことが出来た。(古い雑誌なのでネット上では読めない。)
 残念なことに、飼っていた花粉症の犬は、すでに亡くなってこの世にはいない。今日、スギ花粉 症が、社会的に大きな問題となり、テレビの気象情報の時間に、花粉予報が報じられる時代となった が、自動車の往来の激しい幹線道路沿いで、花粉症の患者が多く見られると言われている。花粉症と 排気ガスとの相関関係を見逃す訳には行かないようだ。そう言えば、昔は、今日と同様に、スギ花 粉が飛散していたのだろうが、花粉症の患者が居たとは聞かなかった。やはり、花粉症は、近代都 市文明、又は、18世紀に起こった産業革命以後の機械文明の生んだ文明病の一つなのかも知れない。

【花粉の発芽実験】
(1)目的:顕微鏡で花粉の発芽、花粉管の伸長を観察し、被子植物の受精、いわゆる重複受精 における花粉の動的な役割を理解する。
(2)材料:夏期は、ホウセンカ。冬期は、チャ・サザンカ・ツバキなど。
 花粉管の発芽の実験材料には、関東であれば、お茶の花が良い。東京周辺は、有名な 狭山茶 の産地であるから、近くに茶畑が結構ある。実験材料には事欠かないであろう。
  (3)器具・薬品:スライドガラス、カバーガラス、ピンセット、ビーカー、顕微鏡、接眼ミクロメーター、 恒温槽、柄付き針、メス、シャーレ、スパチュラ、粉末寒天、ショ糖、酢酸オルセイン、マッチ棒。
(4)実験方法:
(@)寒天培地を作る。
(a)水100ml、寒天2g、ショ糖5gをビーカーに入れ、加熱して、溶かす。
(b)スライドガラス上に寒天を流し、固まるのを待つ。
(c)寒天が固まってから、メスで1cm×1cm大に切り取り、1人分の培地とする。
(A)発芽準備と花粉の観察
(a)スライドガラス上にスパチュラで寒天培地をとる。
(b)おしべをピンセットではさみ、培地の上に、軽く塗り付ける。
(c)カバーガラスをかける。これを数枚作る。
(d)ろ紙に十分水を含ませて、シャーレの底に敷く、その上に、マッチ棒を平行に置き、スライドガラス を数段に重ね、蓋をする。
(e)25℃の恒温漕に入れ、10分毎に取り出して、顕微鏡で観察し、花粉、花粉管をスケッチする。伸び つつある花粉管の長さを10分毎に接眼ミクロメーターを用いて測定する。
(B)花粉管の観察
(a)花粉管が伸長している培地上に、カバーガラスを外して、酢酸オルセインを1滴落として、約、 5分間染色する。
(b)カバーガラスをのせ、高倍率で先端部を観察する。
(5)考察:
(@)花粉管の伸長の様子をケント紙にスケッチせよ。
(A)時間毎の花粉管の伸長と花粉の発芽率をグラフで示せ。
(B)この実験で、適当な濃度のショ糖液を加えなければならないのは何故なのか。
(C)花粉管の中に存在する、すべての核をケント紙に図示せよ。
(D)被子植物の花粉管はコケ植物、シダ植物の何に相当するのか。
(6)発展学習:
花粉について興味を抱いた事柄を、更に深く研究してみよう。(例:花粉の種類と形、花粉病、ハチミ ツの中の花粉など)
(7)感想:実験の感想を、4コマ漫画で描け。

(8)参考図書:(実験レポートを書くために、図書館等で花粉について調べた参考書。)
(9)レポート提出:市販のレポート用紙(B5サイズ)を使って、実験レポートを作成し、上端 をホッチキスでとめて綴じ、実験後1週間以内に提出の事(1週間後の午後4時迄に、生物室前のレポ ート提出箱に入れておくこと)。レポートの枚数は無制限とする。締め切り以後の提出は、一切受け 取らない。

【リンク】
「花粉管中の 生殖細胞の観察」(Omnisサークル)
日本花粉学会


HOME