第19回鑑賞ツアー「河井寛次郎記念館」感想
 


参加者の感想
── 山川秀樹 ──

 今回の鑑賞ツアーは東山にある河井寛次郎記念館を訪れました。
 当初、河井寛次郎は、民芸運動の中心にいた陶芸作家であると聞いていたので、 彼の陶芸作品、とりわけ、工芸品というか実用的な陶芸作品を多く展示している 美術館での鑑賞となるのではと、勝手な予測をして目的地へ向かいました。 ところが、その予測は見事に覆されることになるのです。

 五条通りから東大路より少し西にある路地を南に入ると、まもなく左手に 彼が家族と共に暮らした住居であり、仕事場でもあった記念館があります。
 細長い入り口を通って建物に入ると、そこは土間になっているようで、 まるで数十年前の京都の町屋にタイムスリップしたようでした。とはいっても、 ぼくは彼が活躍した時代に生まれていたわけではありませんし、こうした 古い町屋を訪れるのも初めてだったので、当時のことは全く知る由もないのですが、 とにかく触れるものすべてが新鮮で、しかもその空間全体から、なんだかとても ほっとさせられる空気のようなものが伝わってきたのです。
 記念館の中の様子や鑑賞ツアーの内容の詳細は、戸田さんの報告に譲りますが、 展示されている掛け軸や陶器、彫刻などの美術作品から、当時使われていた 家具などの調度品はもちろん、建物や庭などに至るまで、あの空間全体が一つの 芸術作品のようでした。そして、訪れたぼくらがその作品の世界に包まれて いるようでもありました。

いすや机、戸棚といった木製の家具は、どれも彼が設計や制作に携わったもののようで、 触れるととても重く作りがしっかりしているように思われました。それでいて 木のぬくもりもちゃんと伝わってくるのです。
 それらの調度品にも彼のモダンで誠実な人柄や、仕事や芸術に対する ひたむきな姿勢がよく表れているように見受けられました。

 庭の奥には陶芸作品を焼いた上り釜がそのままの形で展示されていました。 中に入って、灰で真っ黒になりつつ、その大きさに驚いたり、長い時間と労力を 要したであろう、準備も含めたその作業のたいへんさや大切さに思いを はせたりしたしだいです。

 今回の鑑賞ツアーを通して、再度もう少し時間をかけてゆっくり鑑賞してみたいとか、 京都にきた知人をぜひ案内してみたいとも思わせる素敵な場所ができました。

 今もあのほっとさせられる空気のようなものが伝わる感覚はよく覚えているのですが、 その空気のようなほっとしたものの中に、いわゆる「高度経済成長」以降のぼくらの 「国」の社会が失ってしまった大切なものがたくさんあるように思えてなりません。

 ずっとこの空間に留まっていたいとか、1階にある囲炉裏端で一杯やりつつ、 気の置けない人たちと語り合ってみたいとかそんな気持ちにもさせられつつ、 記念館を後にしました。

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