閑吟集 小歌

 
  た                 か         と                    あ
 誰が袖ふれし梅が香ぞ 春に問はばや 物言う月に逢ひたやなう
(8)

大意……

この梅の香りは、誰が袖をふれた移り香なのか、
春に尋ねたいものだ。物言う月に、逢いたいものだなあ


 



 「逢いたやなう」が良いですよね。いかにも歌謡らしくて。この後に、大きな溜め息が聞こえてきそうです。香りだけを残していった人の恋いこがれて、忍ぶ思いを嘆いているのでしょう。

 『閑吟集』の収められている歌は、いろいろな秀歌を下敷きにして作られた、読み手(歌い手)の深読みを当てにした歌です。この歌の本歌は、新古今集の「梅の花誰が袖ふれし匂ひとぞ春や昔の月に問はばや」ということですから、「私の心を捕らえた梅の香りが、いったい誰の袖にたきしめられていたものなのか、昔を知る春や、物言う月に教えて欲しいものだなあ」といった意味になるのでしょうか。

 ただし、本歌を取っ払ってしまって、歌そのものだけを読んでみても、けっこう深読みが出来るのが『閑吟集』の面白いところです。「物言う月」は思う人の比喩かもしれませんね。満ち欠けする月のように、来たり来なかったりする男を恨めしく思う女の恨み言とも、月の障りを口実にされて女に逢うことが出来なかった男の嘆息とも、読めないことはありませんから。



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