梁塵秘抄 巻第二 四句神歌 雑

 
 われ           こ  をとこ
 我をたのめて来ぬ男
 つのみ   お      をに                  うと
 角三つ生ひたる鬼になれ さて人に疎まれよ
 しもゆきあられふ  みづだ                あしつめた
 霜雪霰降る水田の鳥となれ さて足冷かれ
 いけ   うきくさ               ゆ       ゆ  ゆ     あり    
 池の浮草となりねかし と揺りかう揺り揺られ歩け
 
(339)
 

大意……

私に頼みの思わせて置いて、そのまま来なくなってしまったあの男。
角が3本生えた鬼になれ。そして人から嫌われてしまえ。
霜や雪や霰が降る凍えた水田に棲む水鳥になってしまえ。そして足が冷たく凍ってしまえばいい。
池の水草になってしまえ。そうして頼りなくあっちへゆら、こっちへゆらとのさまよい歩け。






 最後は、さまよい歩いてのたれ死んでしまえ、という所でしょうか。好きだと言って言い寄っておいて、女の方がその気になったら、そのまま顔も見せない嘘つき男に、思いつく限りの罵声を浴びせかける女の歌です。

 男が来なくなったのは、きっと新しい女が出来たせいだから、男がすべての女から嫌われるようになれば溜飲が下がるだろう。そして、足が氷のように冷たくなるような、身体的苦痛を味わえばもっといい。そして、不安定な流れ者の境遇に身を落として、辛い思いをすればいい。私はもっと辛いんだから、と呪い願う、そんな歌でしょう。

 でも、これだけ悪態をつけるということは、まだまだ未練があるということでしょうね。本当に嫌いになったら、呪うなんて感情も起きるわけがありません。

 どこか愛情すら残っている、可愛い女の恨み言として読めるような気がします。


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