知里幸惠編訳−「アイヌ神謡集」より



Pon Okikirmui yaieyukar,  
小オキキリムイが自ら歌った謡
“Kutnisa kutunkutun”  
「クツニサ クトンクトン」
 
〔Kutnisa kutunkutun〕  
クツニサ クトンクトン
Shineantota petetok shinotash kushu  
ある日に水源の方へ遊びに
payeash awa, petetokta shine ponrupnekur  
出かけたら水源に一人の小男が
neshko urai kar kushu uraikik neap くるみ        やな
胡桃の木の簗をたてるために杭を打つのに
kosanikkeukan punashpunash.  
腰を曲げ曲げしている.
Unnukar awa ene itaki:――  
私を見ると,いう事には,
“Ehumna ? Chikarkunekur unkashui yan.”  
「誰だ? 私の甥よ,私に手伝ってお呉れ.」
ari hawean. Inkarash ko neshko urai  
という.見ると,胡桃の簗
nepne kushu neshko wakka nupki wakka  
なものだから,胡桃の水,濁った水
chisanasanke, kamuicheputar  
が流れて来て鮭どもが
hemeshpako neshko wakka kowen kushu  
上がって来ると胡桃の水が嫌なので
chish kor hoshippa. Chirushka kushu  
泣きながら帰ってゆく.私は腹が立ったので
ponrupnekur kor uraikikituchi  
小男が持っている杭を打つ槌を
chieshikari, ponrupnekur ikkeunoshki  
引ったくり小男の腰の央を
chikik humi tokkosanu. Ponrupnekur  
私がたたく音がポンと響いた.小男の
ikkeunoshki chioarkaye, chioanraike  
腰の央を折ってしまって殺してしまい
poknamoshir chikooterke. Nea neshko uraini  
地獄へ踏み落としてやった.彼の胡桃の杭を
chiosausawa inuash aike, iwan(1) poknashir  
揺り動かして見ると六つの地獄の
Imakakehe chioushi humiash.  
彼方まで届いている様だ.
Orowano ikkeukiror montumkiror  
それから,私は腰の力,からだの中の力を
chiyaikosanke, neuraini shinrichi wano  
出して,その杭を根本から
chioarkaye, poknamoshir chikooterke.  
折ってしまい,地獄へ踏み落してしまった.
Petetoko wa pirka rera pirka wakka  
水源から清い風,清い水が
chisanasanke, chishtkor hoshippa.  
流れて来て,泣きながら帰って行った.
Kamuicheputar pirka rera pirka wakka  
鮭どもは清い風,清い水に
eyaitemka wenminahau wenshinothau  
気を恢復して,大さわぎ大笑いして遊び
pepunitara kor hemeshpa shiri  
ながら,パチャパチャと
chopopatki. Chinukar wa chierameshinne  
上がって来た.私はそれを見て,安心をし
petesoro hoshippaash. ari  
流れに沿うて帰って来た.と
  Pon Okikirmui isoitak.  
  小さいオキキリムイが物語った.
 

(1)  iwan poknashir……六つの地獄.地の下には六段の世界があってそこには種々の悪魔が住んでいます.(

 

BACK戻る 次へNEXT
[知里幸惠] [文車目次]