立原道造「優しき歌 I


あざみ 
薊の花のすきな子に

 
 III 窓下楽


 
昨夜は 夜更けて
 
歩いて 町をさまよつたが
 
ひとつの窓はとぢられて
 
あかりは僕からとほかつた

 
いいや! あかりは僕のそばにゐた
 
ひとつの窓はとぢられて
 
かすかな寝息が眠つてゐた
 
とほい やさしい唄のやう!

 
こつそりまねてその唄を僕はうたつた
 
それはたいへんまづかつた
 
昔の こはれた笛のやう!

 
僕はあわてて逃げて行つた
 
あれはたしかにわるかつた
 
あかりは消えた どこへやら?