立原道造「萱草に寄す」


 
SONATINE No.1

  
 わかれる昼に


 
ゆさぶれ 青い梢を
 
もぎとれ 青い木の実を
 
ひとよ 昼はとほく澄みわたるので
                 ふるさと
私のかへつて行く故里が どこかにとほくあるやうだ

 
何もみな うつとりと今は親切にしてくれる
 
追憶よりも淡く すこしもちがはない静かさで
 
単調な 浮雲と風のもつれあひも
 
きのふの私のうたつてゐたままに

 
弱い心を 投げあげろ
                  たね
噛みすてた青くさい核を放るやうに
 
ゆさぶれ ゆさぶれ

 
ひとよ
 
いろいろなものがやさしく見いるので
                いきどほ
唇を噛んで 私は憤ることが出来ないやうだ