別表1 精神科SSTで具体的に行われているプロセスを表にしたもの
 (参考文献:臨床精神医学講座20  精神科リハビリテーションP203〜 中山書店、1999)

 
・問題解決技能訓練

  ステップ1:立ち止まって考える
  ステップ2:何が問題かを明確にする
  ステップ3:問題解決のための方法を列挙する
  ステップ4:それぞれの問題の長所と短所をあげる
  ステップ5:それらの長所と短所をみながらどの方法にするか選ぶ
  ステップ6:選んだ方法の実行に必要なことをあげる
  ステップ7:日時を決めて実行


 駄目解説:
 普通、人が何か選択肢のある出来事に遭遇した場合、こういった思考プロセス
 を経て最適と思われる(或い当座は最適と思われる)行動を選択する、という
 のは確かに間違っていない。これらのプロセスは当たり前すぎて意識はしない
 かもしれないが、実際、どれかのステップを飛ばして行動してもらえれば、
 どうなるのか想像していただきたい。また、これらそれぞれのステップの内容や
 質というものも同時に問われなければならないわけで、このステップを辿って
 さえいればそれで良しとするのではなく、個々のステップについてもSST内で
 話し合うわけである。例えばステップ4について、みんなで考えて貰ってステップ
 5について話し合うだとか。


 
 ・よいコミュニケーション

 1.視線を合わせて
 2.手を使って
 3.相手の方に身体を向けて、身を乗り出して
 4.はっきりと聞こえるように
 5.明るい表情で(適切な表情)
 6.話の内容が適切


 駄目解説:
  コミュニケーションの、非言語的な分野を中心としたよいコミュニケーションの
 呈示。こういう事を書いた紙が、SSTルームにはしばしば掲示してあるし、実際
 にこういったトレーニングも実行されている。これを実行するにはある程度の
 モチベーションが必要なのは分かって貰えるとは思うが、ゆえにこそ正の
 フィードバック(良かった点は褒める)もSSTの技法のひとつとして重要らしい。
 勿論、悪かった点ややばかった点については後で教えてあげる必要もある。
 それにしても、これら6つの重要さは、精神疾患の有無に関わらず重要そうだ。
 そして(残遺型統合失調症や精神発達遅滞の人などは尚更そうであるにせよ)
 精神疾患とは縁の無い人であっても獲得の難しそうなコミュニケーションスキル
 のようにも見える。お品書きを表にするだけなら簡単なんですけどね。
 よいコミュニケーション。誰もが望みながら、誰もが簡単に達成できるものでは
 ありません。

 
 ・対人関係の問題解決の手段

 1.あいさつをする
 2.自分の立場・状況を伝える
 3.情報を相手に伝える
 4.情報や説明を相手に求める
 5.自分に手助けが必要なことを強調する
 6.相手の立場・感情を理解し、一方で自分の立場・感情を主張する
 7.要求する
 8.人の要求に応じる
 9.人の要求を丁寧に断る
 10.提案や誘いをする
 11.調子を合わせる
 12.歩み寄る
 13.後の約束をとりつける
 14.謝る
 15.相手を褒める
 16.感謝の気持ちを言葉に表す
 17.素直にがっかりした態度を示す
 18.困った態度を示す
 19.批判を受け流す
 20.曖昧な表現をする
 21.言い訳をする
 22.話題を変える
 23.丁寧に話を終わらせる
 24.その場を離れる
 25.間を置く



 駄目解説:
  この表をまともに見て、まともに自分が出来ているか内省するとなかなか
 やばい気持ちになってしまうし、(26.これらを適切に使い分ける)を付け加える
 と暗澹たる気持ちになってしまうが、これらがコミュニケーションにおいて重要な
 技能であり、嫌でも選択を迫られる選択肢であることは殆ど間違いない。
 SSTでこんなに沢山全てを患者さんにやるように言うと混乱してしまうかも
 しれないが、何か問題点があった時に、こういう表が手元にあると、問題点を
 表で指し示しながら「どこがまずかったんだろうね」などと整理して考える際に
 重宝する。これらの幾つかは、特定の疾患の人には克服が困難なものかも
 しれないし、また幾つかは、疾患の有無に関わらず困難なものかもしれない。
 表に書かれているような事が幾つかへたくそでも生きていくことは出来るかも
 しれないが、多く・または全部は不得手であればコミュニケーションに大きな
 障害をきたすことは想像に難くない。っていうかきたします。

  こんな風な理念をもとに、実践は行われていますが、このお品書き通りに
 いけば苦労はしません。実際は、患者さん本人・スタッフ・家族・担当医などが
 最善を尽くしたほぼベストのケース、試行錯誤と失敗を含んだプロセスが繰り
 返され、ゆっくりとスキルアップしていきます。そしてさらに多くのケースでは、
 失敗を含んだプロセスを繰り返してもなかなか進まなかったり、病状の変化に
 よって成果が台無しになってしまったりする事もあり、なかなか満足のいく
 成果が得られないのも実状です。

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