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004 すたばの雪隠 2  

と、わたしと同様の感を抱いた訪問客が、ある日、この張り紙に、雪隠の快適さを称え、スタッフの労を労うメッセージを書き込んでいきました。
「お掃除いつもありがとう」

と、後日、これに呼応して、別人からまたもや現場を励ます書き込みがありました。
「スタッフの皆さんのおかげで気持ちよく使えます」

わたしは週に2度の頻度でこの場所を訪れるのですが、その度にスレッドは成長し、次第に店全体の感想や、禁煙ポリシー守り続けてください等の要望にまで発展していきました。観察するに、非常に面白い現象ではありましたが、一方、サイバー世界の毒に慣らされた感覚からすれば、荒らしの出現などの好ましくない事態も予測され、また、暴走した落書きが紙面をはみ出て店に実害を及ぼす可能性もはらんだ状況でした。わたしは息を潜めて成り行きを見守りました。幸い、この雪隠掲示板はなんら逸脱することなく、時には店サイドの書き込みもあったりなどして、和気藹々と約一ヶ月で余白を埋め尽くし、その後しばらくして再び部屋を訪れたときには、店当局がなんらかの判断を下したのでしょう、取り外されて、なくなっていました。

あれから半年が経ちました。ほとぼりが冷めた頃なので懺悔します。すたばさん、ごめんなさい。最初に落書きした犯人、実はわたしです。ごめんなさい。もうしません。まったくもう、便所の落書きなんて、分別盛りの大人のすることじゃぁありません。ほんと、もうしませんって。あの張り紙のあった一ヶ月間、実は、生きた心地がしませんでした。わたしの落書きを発端として、いずれ壁一杯が公園の公衆トイレ状態になりやしないかと、そんな不安から夢にうなされたことさえありました。いや、もう、杞憂に終わったのは幸いでした。世の中に善人が圧倒的に多い事実に救われました。はああ、もーしません。雪隠の神に誓います。

ところで、すたばさん。あの一件以来、カウンターにサイン帳を置かれたようですが、あれ、トイレに置かれた方が、ぜったい、みんなの筆が進むと思います。

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