『初恋』

9月14日に西太子五号として誕生したシャー皇子は、雛の頃にそのう炎を発症し一時は危篤状態にあったが、

飼主&嫁様の手厚い看護の甲斐があって、何とか黄泉の国入り口から戻ってきた生命力の強い男の子だ。

同じ時期に産まれた兄弟たちのうち、壱号と弐号は生後2週間過ぎに里子として異国へ旅立ち、しばらくの間保留状態にしていた

姉の参号・四号(白文鳥:♀)とシャー皇子は同居生活を送ることになった。

シャー皇子にとっておとなしい性格の姉たちとの生活は気楽で優雅なものだった。一番風呂は当たり前、豆苗は最初にかじりつき、

ブランコは独占して楽しみ、放鳥時は姉たちを従えて遊びまわるという典型的なお坊ちゃまな生活を送っていた。

しかし、シャー皇子の優雅な生活は長く続かなかった。それは、10月下旬に誕生した北太子たちが籠生活を始めたからだった。

この時期、北太子たちの性別がわからないので王朝の後継者選びができなかった。

嫁様は一番手が掛かった西五号は手放したくないし、白文鳥も1羽は残して欲しいと好き勝手なことを言うが、

飼主はそんな声を聞く耳をまったく持っていず、王朝の継続が一番大事であり、オスとメスでカップルが出来れば良いと考えていた。

西五号はさえずるのでオスで間違いない。西参号と四号はさえずらないのでメスで間違いないだろう。とするとその相方が問題だ。

当時、北太子は六号・七号・八号・九号の4羽がいた。北九号は一度里子に出したがそこの子供さんの喘息の症状が悪化した為、

北九号は出戻ってきた。北太子がもし全部メスならば(4羽ともということはないだろうけど)西五号と北太子1羽を後継者として残し、

逆に全部オスならば西参号か四号かどちらかと北太子1羽を後継者として残して、あとの太子たちは全部里子に出すつもりでいた。

結局、西太子で唯一の男児の五号をシャー皇子として立てた。そして北太子のうち六号・七号はメスで八号と九号はオスだった。

つまり、西五号と北六号・七号のどちらかを後継者にすれば良いとあっさり後継者選びは解決した。

それとは別に飼主は王朝の分朝計画を持っていた。計画のひとつとしてすでに里子に出していた北四号のもとに

西三号を嫁がせる事になっており、そしてもうひとつの分朝を作るため、西四号とどちらかと言うとおとなしい性格の北九号とを

ペアにすることに決めた。この分朝計画によって、西四号と北九号とを仲良くさせる必要性があった。里子に出すのに、

いがみ合うカップルでは貰い手がないだろうし、里親様に対して失礼だ。そのため西四号と北九号の2羽だけの同居生活が始まった。

ほっとけばそのうち仲良くなるだろうと期待して・・・・。

残った籠に、シャー皇子といずれ北四号のところへ嫁ぐ西参号と北六号・七号・八号が同居することになった。

この状態は我慢してもらうしか仕方がない。西四号と北九号が里子として出国すれば、その籠にぺー皇女以外の北太子を

放り込めば良いだけなのだ。小さな諍いはあるものの静かな生活を送る西四号と北九号と比べて、

多数同居している籠の中は争乱の毎日だった。シャー皇子は換羽中で気が立っていたようで、北太子たちを何かにつけてやっつける。

その北太子たちは穏やかな性格をした西三号を腹いせにいじめる。

バタバタバタバタとうるさいが血を見ることまでには発展しそうもないのでいずれ何とかなるだろうと飼主は静観していた。

それでも一番弱い立場にあった西三号が可哀想だったので怪我が治った後、すぐに計画通りに北四号のところへ嫁入りさせた。

籠の中に残ったのは、シャー皇子と北六号(♀)・七号(♀)・八号(♂)となった。

換羽の終わったシャー皇子は、白文鳥と桜文鳥の間に産まれた文鳥とは思えない胸にぼかしのない並文鳥の羽色になってしまった。

唯一、頭部のくちばしの頂点のところにポチッと小さな白い点があるのが御愛嬌だが、どうしてこんな羽色になったのか得心が行かない。

そんな並文鳥シャー皇子だったが、今度は北太子たちが換羽となり性格が荒くなってしまったためか、立場が逆転してしまった。

つまり籠の中で下克上が発生してしまったのだ。だいたいシャー皇子は父親の血を強く引いたのか、

それとも真綿で包むように育てたためか、かなりおっとりしている。放鳥していても一番捕まえやすいのがこいつだ。

籠の中のボスの座を奪ってしまったのは北太子の中での唯一のオスであり、一番最初に換羽が始まった北八号だった。

この北八号の反撃は今までやられていた思いを晴らすように激しかった。

この北八号は挿し餌の頃から少し変わった性格を持っているみたいだった。

今までの経験では、挿し餌の頃の雛は人間様が好きで恭順の姿勢をみせるのだけど、この北八号は人間様に対し

孤高不恭の態度をみせることだった。つまりなんか生意気なのだ。

立場が弱くなったといってもシャー皇子は普通の男の子。健やかにに成長している彼は一人前にラブソングを熱唱し、

ラブダンスを披露するようになった。そして最初にシャー皇子が恋の相手に選んだのは北六号だった。

この北六号は可憐さのある桜文鳥らしい文鳥で、従順なタイプのように思える。

シャー皇子がどんなタイプが好きなのかは知ることは出来ないが、北七号より気に入ったことは確かだった。

可愛い乙女の北六号は、弱っちいシャー皇子はあっさりと振ってしまう。あっさりどころか歯牙にもかけない。

シャー皇子も何度かアタックするが、一向に反応してくれない。業を煮やしたシャー皇子は今度は相手を変えて、

北七号を口説き始めた。この北七号は、羽の色は父親のハツ王に似ている羽色を強いている。頭の虎縞も良く似ている。

顔つきは、母親のナン王后に良く似ていてきつい目つきをしている。右朝の後継者は親の特徴をよく引き継いだ北七号にすることに決めた。

ペー皇女の誕生である。これで東(トン)南(ナン)西(シャー)北(ペー)の揃い踏みだ。

このぺー皇女は言い寄るシャー皇子が近づくことも許さない。やはり文鳥の世界でも強いオスのほうがもてるのだろう。

こうやって、シャー皇子の最初の恋は見事に終わってしまった。シャー皇子が色気づくのが早かったのだ。まだまだ幼い皇女達を

口説こうなぞ1ヶ月早い!生後一年も経たずに卵を産まれては適わないのでしばらくの間シャー皇子は失恋街道を走り続けてもらい、

父王の若き頃と同様に、自分を慰めるラブソングを唄い続けてもらうしかない。