第7章 チョコフレーク


6/15。さて、電装トラブルも落ち着いたことだし、ぼちぼち、更なる信頼性向上整備に取り掛かりましょう。

今日は、ちょっとガタついているタイロッドエンドの交換だ。作業そのものは、ギアプーラーで、テーパーかん合部を外すことと、タイロッドの繰り出し量さえ、ずらさずに交換できれば、そんなにたいした作業ではない。タイヤを外し、タイロッドエンドの取り付けナットを外す。そこにギアプーラをかます・・・・ うーん、ナックルに、ギアプーラーの爪がかかる面積がない。まるでウナギのつかみ取りのように、つるつるとすべる。

とりあえず新兵器、CRCテフロン配合スーパー556をテーパー嵌合部に吹き付ける。一体何がフツーのと違うのか、こういうところで根性を見せれば、そのうたい文句を信用してやろう、という配慮である。

そして待つ事しばし、ギアプーラーがやはりかからない。あたりまえである。タダでさえ、掛かり代が少ないのに、油を塗れば爪が余計に滑ってしまうのだ。大馬鹿である。

結局、グラインダーでギアプーラーの爪を、薄く鋭角に削ってみる。今度は引っかかるようにはなったものの、削りすぎたせいか、肉厚が薄くなりすぎて、プーラーのネジを締めてゆくと、今度は爪の先端が変形して負けてしまう。更にはグラインダーの熱で、焼きなましが入ってしまってるようだ。

さて1時間、悩んだ。そしてひらめいた。ギアプーラが開かないように、プーラーをタイロッドエンドにかませておいて、水道レンチでプーラーが滑らないようにロックした。工具を工具でいじめる、奥の手である。

そしてめでたくゴキッという鈍い音とともに、タイロッドは外れてくれた。あとは、新品にスワップしておしまい。片側やれば、反対側も問題なくOK。結局、この日は中途半端に時間が余り、気になる排気漏れをもう一度、見直すことにした。

数日前、日々X1/9をレストアしている(た?)方のHPで、トランクルームと、エンジンルームの隔壁が脱着出来、メンテナンスホールになることが分かっていた。荷物を降ろし、カーペットをはがす・・・・。そこには一面、私の大好物のチョコフレークがばらまいてある。

一瞬何が起きたのかわからず、口に放り込もうとしたが、気を取り直して良く見ると、それは朽ちた鉄の破片だった。なんたることであろうか。

しかし、放っておいてもしょうがないので、チョコフレークを取り除く。参考までに集めたフレークを計量すると、1kgもあった。すなわち、それを取り除くことで、1kg軽量化に成功したことになる。しかし、このままでは、トランクが底抜けになってしまうので、そのうちステンレス板でも当てよう・・・・。

かくして、排気漏れの方は、エキマニパイプを取り付けるボルトがゆるゆるしていたので、締め付けてOK。触媒のヒビは、溶接する暇が出来るまでは、実質1ヶ月程度しか持たないガンガムを塗りたくって我慢する。かくして試乗だ。

ハンドリングの応答が、少しマイルドになった。排気音も、大分収まっています。よしよし。あとは車検に向けて、ブレーキのメンテだ。

6/29。いよいよ、車検が間近に迫ってきた。懸案の(何事も懸案か・・・。)ブレーキホースの交換、およびキャリパのOHが必要である。

X1/9は4輪ディスクブレーキであるが、なんとマスターバックによる倍力装置が無い。リアエンジンなので、フロントまで、エアーの配管を引き回せなかったためだろう。しかし、自己倍力作用を持つドラムブレーキならいざ知らず、ディスクブレーキは、マスターバックによるサーボを掛けないと、ブレーキを踏む力が半端ではなく要求されるのだ。

さらに、いつぞやのオーナーが、メッシュのブレーキホースに交換している。確かに、こうすることでタッチが固くなるが、耐久性が劣るのと、上記のように倍力装置の無いクルマ場合、かえってペダルタッチが悪くなり、街中ではコントロールしにくいと思う。ホースのメーカーも分からず、車検に通るかどうかも微妙だ。よって、ノーマルなゴムホースに交換する。

さらに、キャリパもOHしちゃおう。ただ、実は私自身、リヤのディスクブレーキキャリパ分解は、初めてである。ピストンシール関係の構造は、フロントと同じはずだが、サイドブレーキ関係が良く分からん。日本車でも、ここはメーカーや車種によって、さまざまな方法があり、ちょっと不安だ。

ヘインズのマニュアルの図解では、細かいパーツが色々入ってる。基本方式は、サイドブレーキワイヤーを引いたとき、つながるアームが引っ張られ、そのアームの軸が回転する。一方、キャリパのピストンにつながったシャフトがあり、アーム軸とこのシャフトの間には、クサビが入っている。すなわちアーム軸が回転するとクサビは押され、ピストンを押し出す。それが、ディスクとキャリパを圧着させてサイドブレーキを構成する。そしてピストンにつながったシャフトには、何枚ものスプリングワッシャが通してあり、この反発力で、サイドブレーキを解除すると、ピストンが戻る。

この構造をマニュアルで見たとたん、組み立て時の大変さ(スプリングワッシャとはいえ、人力では押せないほど強いものである事が、経験的に分かる。)が予想出来た。まあ、しょうがない。とりあえず手慣れたフロントのキャリパOHをさっさと済ませよう。当然、ホースを外すと、ブレーキラインからフルードが垂れる。ほっとくと、マスターシリンダも、リザーバタンクもカラになり、後のエア抜きが、大変な作業になる。そこで、ビニールチューブをカタ結びし、ブレーキラインにつなぐ。こうすれば、フルードは出口を失い、漏れようがない。あるいは、莢箸を突っ込み、栓をする手もある。この場合、多少漏れは出るが・・・。こんな方法も、経験値豊富になると、ひらめくものである。

で、フロントキャリパのOHは、手慣れた構造なので、さっさと進む。エアでピストンを押し出し、掃除し、シールを交換。ピストン押し込み、ダストブーツを付けて、ホースを付ければ完了。軽く一人エア抜きをしておく。

さーて、リヤである。手順はキャリパを外し、ホースをはずす・・・ここで問題。ブレーキライン側は問題無いが、キャリパ側、六角ナットなのだが、13ミリでも14ミリでもない。困った。とりあえず、キャリパを車体から外す。うーん、意を決して、バイスクリップで訳分からぬサイズのナットをまわす・・・グニュ。ひぇー、ナメてしまった・・・。

まあ、こうなったらホースを外すしかないのだから、開き直る。そして良く見ると、このナメた口金部分は、ホース自体とは別物だ。つまり、ホース部分が外れれば、何とかなるようだ。しかし喜んだのもつかの間、そのホースのジョイント部は、普段分解出来ぬよう、11ミリなのであった。

背に腹はかえられない。いつものビーバートザンで、愛用のKTC片目片口スパナを購入。 果たして、ホースは外れた。そして、ナメた口金の六角をやすりで削る。大体削ったら、13ミリのソケットをハンマーで叩き込む。で、伝家の宝刀、インパクトレンチ攻撃をくれてやる。結果はイッパツでOKである。

それにしても、ナットやビスをナメるっていうのは、無駄な労力が増えて嫌であるが、避けて通れないことが多い。良い工具というのは、こういうときにわかるものだ。

さて、キャリパから、アームをプラハンで叩き出す。案の定、ワッシャスプリングで押し付けられていて、カタい。なんとか外れたら、シャフトの ロッキングを解除し、エアでピストンを押し出す。ここで失敗。ピストンよりも先に、シャフトが飛び出した。そしてワッシャがバラバラになっちゃった。(ワッシャは5枚も組んである。) コイツは球状に絞ってあり、つまりは組み込み順序が分からないのだ。まあ、これは反対側を同じ失敗しないでばらして見ればダイジョウブ。

シール交換はさっさと済ませ、いよいよ組み込み。 ピストン入れて、シャフトを入れて、クサビを入れて、アームを挿入。やっぱり入らん。

たかだか球状に絞ったワッシャだが、その反発力は、スゴイ。無駄な努力を1時間、やはり冶具が必要だ。構造を考えるに、エンジンのバルブスプリング組み付けと同じような感じである。よって、シャコ万力に、お得意の水道管塩ビパイプを削った下駄冶具を用意。

あれこれ位置出しし、何とか使えそうな雰囲気を見つける。ここまでさらに1時間。あとは、組むのみ。しかし、いくらスプリングを縮めても、一向にアームは中に入ってくれない。悩み1時間。よくよく観察すると、ワッシャは圧縮されているが、肝心のシャフトがへこまない。そっか、反対側のピストンにつっかえてるんだ。ピストンを少し下げ、シャフトをねじ込み、再トライ。・・・・デモ入らないんです。

ついに困った。作業手法は間違えていない。焦る。タイヤも交換したいし、でも、もうあたりはすっかり夕方だ。一瞬、明日会社を休む羽目になるか、と覚悟する。

トイレで休んで、気を取り直す。ふとひらめく・・・マニュアルを読み直そう。

なになに?キャリパにシャフトを組み、アームを組み、そしてピストンをねじ込む?
ええ?ピストンって、最後にねじ込むのかぁ。早速作業再開。まあ、コツは必要であったが、アームはすんなり入っちゃいました。こうなりゃ、後は組むのみである。 やっと左右の作業が終わると時間は6時半。タイヤ屋は7時迄である。駆け込みでタイヤを交換し、家に戻って、もう一度ホイール外して、フルード漏れなど問題無いか確認。

ダイジョウブである。それにしても今回、やはり語学は大事である事を痛感させられた。夜、屋根を外してR246を流す。風とエンジン音が心地よい。これぞX1/9の楽しさである。気が付くとすっかり深夜であった。 さあ、いよいよ7/2は車検である。