第11章 ピョン吉タイヤ

・時は移り、はや11月。必死のメンテナンスに、みちのくのお転婆娘は、東京のお嬢様になったかに思える。とにかく走行系の消耗部品、機関、ブレーキ周りと、走るための整備に躍起になった報いとして、最近では同僚氏による、リンドバーグの大西洋単独横断飛行にも 匹敵する”山越え京都ツアー”、ナリタモーターランドでの”走行会デビュー”にもノントラブルで耐えた我がX1/9であった。

ところが、である。気をよくした私を、嫌な予感にさせる出来事が続く。

まずは、トランクフードのオープナーワイヤーがいきなり切れた。幸い、頭のストッパが飛んだだけなので、プライヤーで、残りの部分を引っ張る事でロックは解除出来る。

次に1輪、未交換であった左フロントのホイールベアリングから、ゴーゴー音が発生しはじめた。幸い、リヤホイールベアリングの時に比べて、まだ大丈夫そうなので、部品が来るまで、少しいたわって乗る事にする。

次にカーステの不調。これは、クルマのせいではなかったのだが、暫く乗らないと時計やプリセットチューナーがリセットされ、ラジオやCDの音声も出ない、というものだ。これは結局、カーステを無理矢理狭いスペースに詰め込んでしまったため、常設電源コードが接触不良を起こしてしまったためのようである。とりあえず応急処置で直しておく。

さて、以上はそんな程度のことであるが、今回は、まさにガビーン!といった出来事が起きてしまったのである。

実は、当方また悪い癖で、予想外の車輌導入の運びとなった。走行10万キロ、エンジン不調のユーノスプレッソである。こんなもの貰うのは奇人だが、プレッソは前の彼女が乗っていたクルマで、そのトリッキーなハンドリングと、V6の上質なフィーリングに、意外とやるじゃん、という魅力を感じていたので、ついつい手を出してしまったものである。エンジン不調は時間をかけて直せばいいのだ。

そんなこんなで、X1/9の置き場所にも苦慮する事になってしまったのであるが、何とか知人に無理をお願いし、会社の端っこのスペースに、春までは置かせてもらえる事になった。

しかし、そこで事件は起きた。ある日、2週間ぶりにX1/9の顔を拝みに行ったところ、エンジンは掛かったが、発進出来ないのだ。”???” 窓を開け、なにげにドア下を見ると、直径4センチくらいの木の切り株が刺さっていて、動けない。”???”。

駐車した時は、切り株にドアをぶつけるような間抜けはしていない。そういや、車体が傾いているような気がして、ふと車輪を見た。と、そこには、”ピョン吉”のようにペッタンコになった、リヤタイヤの姿があった。呆然自失で、”きょーしせーかつ25年”でおなじみの、町田先生の顔が思い浮かぶだけである。

即ち完璧なまでのパンク。ど根性ガエルの歌を3回歌い、ともかく、クルマを引き出して、スペアタイヤに履き替える事にする。まずは思いっきり右にハンドルを切り、少々乱暴にクラッチをつなぐ。”ボリボリッ!”という音と共に、何とかクルマの引き出しに成功。

外に出て、恐る恐るドアを見る。そこには錆色をした、直径3センチ、幅12センチほどの穴があった。つまり、通常なら凹むところのモノが、錆のために、穴になって切り株が貫通してしまったらしい。

一方、外したタイヤは、重いリア側であったことが不幸に、完璧に変形している。これは残念ながら、交換するほかない。実走2000Km程度の、短い生涯であった。まずはショップにホイールごと持ち込み、タイヤは新品に交換してもらう。

で、ドアの穴の修理が、次に必要である。実は今まで、車体はあちこち錆があるのが分かっていたが、あえていじらずにいた。なぜなら、一度手を付けたら、シロートレベルでは簡単には手におえない状況である、と理解しているからである。

しかし、こうなってしまった以上、このドアだけは処置せねばなるまい。意を決して、自家製板金と行きましょう。まずは、出来る範囲での錆とり。ディスクグラインダーで、穴の周り、錆部分を思いっきり、ガリガリ削りとる。その理由は、鉄の地金を出し、錆をきちんと取らないと、パテは決して密着してくれないからである。

さて、次に穴の処置。穴が大きいので、そのままパテを盛ることは出来ない。よって、アルミのメッシュ板を穴にあてがい、パテを盛るための基盤とする。その際、その周りを少々へこます。そして、スパッとパテを擦り付ける。数時間後、パテの硬化を待って、パテ研ぎに入る。

当然、イッパツでは平滑には出来ないので、何度かパテ付け、研ぎの繰り返しを行い、形を整える。同時に、サフェーサーの足付けとして、補修塗装する部分と、旧塗膜の境目に、フェザーエッジを出す。これがうまく出来ると、まるで輪島塗りのような模様が出来るのと、ついでに、何度今までペイントされているか、という事も分かる。

その結果、どうやらこの部分は過去、2度ほど補修されているら しい。今回は、ドア下半分のみ塗るので、まずは本塗りの為のマスキングラインを決める。ドアには、横一線プレスラインが走っているので、そこに決定する。そのラインから、若干小さめに、サフェーサーのマスキングラインを取る。こうすると、本塗りだけ塗装されてしまうところが少し出来てしまうことになるが、後で境界ぼかす時、塗膜の境目をペーパーで削るので、下塗りが出てきてしまうので、私は部分補修の際はこの技を使う。

さて、サフェーサーを吹く。これを行なうと、パテ付けの不具合箇所が実によく見えてくる。再びパテで部分補修し、硬化後、軽く研ぎつける。

いよいよ本塗りだ。このX1/9の塗装、いつぞやオールペンされた色なので、どういう赤色で塗られているのか、実はわからない。以前、タッチペンで近似色を捜したら、マツダのブレイスレッドが近いようだった。よって、今回も、この色のスプレーを買ってきた。もちろん、ホルツのウレタン入りスプレーだ。

コイツは色の”合い”もいいし、何しろウレタン入りなので、表面強度が良いため、私のお気に入りである。難点は、国産車しかラインナップが無い事くらいか。

ちなみにお湯で、缶を湯煎し、スプレーの内圧を上げる裏技は、プラモデラーの間では常識だ。実際、暖めたスプレーは吹き易いし、きめ細かい塗膜を得られる。

ドア半分に、スプレー1本を丸々塗り、しばし乾燥する。3時間ほどして、#800のペーパーで、水研ぎを行う。これは表面を均すためである。その後、コ ンパウンドの粗、中、細の三段磨きを行う。

ここで、ちょっと失敗してしまった。というのも、磨き工程で、プレスライン部が削れ易いのを忘れていたため、ちょっと下地が出てしまった。これは本来、プレスラインはマスキングしておいて他を磨き、プレスライン部はその後、軽く磨くのがコツなのだった。

まあ、ごまかして完成としよう。色はちょっと他の部分と違うけど、そもそもパネル毎にビミョーに色がズレているクルマなので、この程度は問題無し。表面も、透かしてみればモコモコしてるが、シロート工事にしては、上出来だと思う。うーん、こうなると、他の部分も気にはなるが、いざ手を出したら大変な事になる。ヤバそうなところとしては、左フロント辺りも補修をしたいのだが、結構な大事になりそうでコワイ。ここは、今回知らん振りしよう。

それより、弱った足腰がはなはだしいので、今回はショックとインシュレーターも奮発してベイレスに発注する事にした。1年という期間を考えると、これが最後のベイレスへの部品発注となりそうである。