広小路本店の食堂に、「不易流行」の書の大きな額が掛けてあります。芭蕉が俳諧の基本とした言葉と言われていますが、元は「荘子」にあった思想だそうです。 「不易」変わらないものと、「流行」移り変わるものは、根本では同じという解釈が辞典に載っています。 生まれてから死ぬまで、一人の変わらぬ人間として存在していても、昨日の私と今日の私は同じ私ではない。心の中も常に変化し、同じである筈はないけれど、変わらない何かはいつも存在しています。時代は変わっても、人の心にある情や思いやりは変わらないと思いたい。 東鮓本店は、今年創業135年目。 「不易流行」の額を見ながら、私は時々思いを馳せます。、私の生まれるずっと前から今に続く長い時間に…。会ったことも無い様々な人々との、この店を通じて繋がる不思議な縁に…。私の親の、その又親の、その親のずっと前の人びとのこと。その人たちは一体どんなことを大切に思って生きてきたのでしょうか? 長く続けることが出来たのは、来て下さるお客様あってのことですが、そこには、日々努力を重ね、この店に携わってきた多くの人々の永年の力です。それは、お客様の満足を第一に心がけ、お客様の納得と賞賛に値する良い仕事を通して、お客様の変わらぬご愛顧をいただけたおかげです。 2月の雪、3月の風、4月の雨が、美しい5月をつくる、と言います。いつも、何かが達成される為には、困難や風雪に耐える時(時間)が必要です。そして守るべき大切なものが、いつもあった筈です。 様々なものが、恐ろしいほどのスピードで変化する時代にあって、変わらないものをこそ大切にすることが、今はとても難しい。安易に流されるのではなく、確固たる意志で変わらないものを守り続けるには、大きな努力とバランス感覚が必要です。 家族、友人、職場の仲間といった身近な人々との、暖かい人間関係を、もっともっと大切にしたいと思っています。不易流行とは、つまり、自然の営みの中に生かされている人間そのもののことなのですから。(2004/02/28) ふえき‐りゅうこう【不易流行】 |