建築家に依頼するということ & ハウスメーカーに依頼するということ
【補足説明】
じゃあどこに頼めばよいの?

このページは「建築家に依頼するということ」というページで言い足りなかった事を、施主候補さん達が本当に知りたいと思う「どこに頼めばよいか」に言及しながら補足説明させて頂くページです。

前提条件として、前のページの「建築家に依頼するということ」をまだ読んでいらっしゃらない方は、先にそちらをご覧ください。

プロローグ
 順番が後先逆になってしまいましたが、ここで「建築家に依頼するということ」を書こうと思った経緯を書いておこうと思います。
 発端は、とある掲示板で「自分の理想の家を造りたい」という施主予備軍の人と、「何でも自分の希望どおりにしたい人はお断りしている」という建築家さんがバトルを展開していたのを読んだことです。それまで個人的には建築家に頼むのは、ハウスメーカーでは出来ない理想の家を作るためだ、という意識があったので、「そういう人は建築家に依頼してはいけない」という考え方があるのは正直衝撃的でした。
 そんなこともあって、では「誰が建築家に依頼するのに適しているのか」という疑問が出てきました。その為には建築家に依頼する事が、どういうことであるかを正確に理解していく必要があると常々考えてきました。その後いくつかの建築家に依頼した施主さんの事例を目の当たりに見てきて、徐々に頭の中で整理されてきたものを自分なりにまとめてみたものが前の頁に書いた内容です。

コストについて
 ハウスメーカーは宣伝費等の経費が多く乗せられているので高い、という人が居ますが、それは必ずしもそうではないことは前のページの「ハウスメーカーに依頼するということ」で書いたとおりです。また、建築家(設計事務所)に依頼すると設計料や監理料を別途取られるので高い、という話もありますが、これはどこに依頼しても実は経費の中に隠れているコストであって、その労力と効果を考えると決して高いものではありません。
 コストに関しては、一般的な傾向ではなく、ハウスメーカーと建築家依頼とどちらか一方が必ず高い、というのは無いと思います。ローコストを得意と名言する建築家さんもいらっしゃいますし、どんなに見込み違いの追加費用がかかっても工務店さんがどんぶり勘定で吸収してしまう事だってありますから。ハウスメーカーでもローコストを売りにしている所もあれば、とことんこだわってそのハウスメーカーでは通常オプションでも使っていないような部材・工法を高い代価を払ってでも使う事だって可能です。

じゃあどこに頼めばよいの?
 それは一言で言うと、何を重視するかによって決まると思います。

 例えば私が何よりも重視したことは、「きちんとした家が建つ」ということでした。そう言った意味では設計で冒険して現場で収まりに苦労したりとかはして欲しくありませんでした。建築家さんの頭の中では出来ても現場の職人さんの腕が付いていかないような造りでは困るのです。設計よりも家全体の性能と建築そのもので問題が出ない事を一番手に考えていた私は、最終的に一つのハウスメーカーを選択しました。
 私とは異なり、「物造り」の楽しさを追求するのであれば、それは建築家との家造りに向いた人だと言えるでしょう。ハウスメーカーとの家造りも確かに楽しいですが、芸術的な物造り感は、やはりセンスある建築家との家造りに軍配が上がるのではないでしょうか。ただし、施主の頭に確固たるイメージがあって、それがまったく揺るがない場合には、むしろ建築家との家造りは適さない可能性があります。その場合にはそのイメージを設計図に落としてくれる事のみに注力する人(設計図を書くだけの建築士)が必要だ、ということになります。また、家に関して特殊な要求がある場合には、それを満たしてくれるビルダーを探すことになるでしょう。その際には建築家に依頼することも当然選択肢に挙げられると考えます。

 ここで家造りにおける設計士さん(ハウスメーカー・設計事務所等の所属を問わず)の役割で、設計と同じくらいに重要な現場監理能力ですが、ハウスメーカー等では、どうしても納得行かない監理能力だった場合には担当者のチェンジという技が使えます。チェンジしても基本仕様は一緒なのでやれるのですね。一方、建築家とはある意味一蓮托生になります。そこはリスクです。でもそこは最初から第三者監理を入れる等の補助的手段を講じておけば、リスクを小さくすることが出来ます。これによって建築家に依頼することのメリットを最大限に生かすことも出来るでしょう。

 少し話は変わりますが、私は建築家さんや他の専門家さんが書いている住宅の本を殆ど読んでいません。何故なら、この手の本は読み進めていくと結局は自分のやっていることが良いという主張(時には宣伝)だったりするからです。ビルダーを選択する際に、言い方は悪いですが、本を読んで洗脳されるのが嫌だったから、というのが正直あります。家を建て終わった今なら冷静に読めるかもしれません(^-^)。今現在の施主候補の方々にも、私はこの手の本を読むことをお薦めしません。家造りに関する情報はこの手の一方的な本以外でも、今は簡単に入手できますから。

 話を戻しますと、結局のところ、設計事務所もハウスメーカも工務店も種類はたくさんあって、いろいろな建築士さんが居てビルダーが居ます。だからそこで『あなたにとっていい家とは、どんな家か?』を考えた上で、何を最優先課題とするかの順位付けをした上で、リスクマネジメントをすることが大切だと思います。というわけで、ここではどこに頼むのが良いかの回答は出せません。皆様の考え方次第でしょう。

建築家(設計事務所)に依頼する人を増やすためには
 ここで少し趣を変えて、今現在、明らかに少数派である建築家(設計事務所)に依頼する人をどうすれば増やせるか、という点についてちょっと考えてみたいと思います。

 家を建てることを、どこに依頼するかを考えた時に、現状では残念なことに、多くの施主候補者には建築家に依頼する事が選択肢にすら挙がりません。それは「建築家個人の情報を持っていない」という事や、建築家に依頼することのイメージの問題が絡んできます。まずは存在をアピールしないと頭に浮かんでもくれませんから、施主候補者が依頼先を探しに行く場所、例えば住宅展示場の中に、いくつかの設計事務所が合同で出先窓口を構えて、各々の設計事務所に依頼したときにどんな家が建つのかをイメージ出来るようにする、といった宣伝努力が必要かもしれません。
 また、一部の建築士さんは既に気付いていらっしゃるようですが、建築家に依頼することが「特別なこと」だというイメージの改善が必要でしょう。庶民にとって家造りは確かに特別なことですが、特別な家は要らないから十人並みの家が欲しいと考えている人は「建築家に依頼するなんて特別なこと」には手を出さないでしょう。

 何故「特別なこと」になってしまうのか。私は、それは建築家や建築家に依頼することを勧めている人たちの言動にも要因があると考えています。つまり、勧誘が逆効果になっていることがある、ということです。

 次の言葉は、ハウスメーカーで建てた施主さんに対して、建築家に依頼することを勧めている人が言った言葉です。
「ハウスメーカーで建てたんですか。それを否定するつもりはありませんが、もし建築家に依頼していたら、もっと素晴らしい経験が出来て素晴らしい建物が出来たかもしれませんよ。」
・・・これは何ですか? ハウスメーカーで建てた人を見下しているような。
その何となく馬鹿にしているような印象を抜きにしても、この言葉の内容には不足があって、適切ではありません。正確には、
「ハウスメーカーで建てたんですか。それを否定するつもりはありませんが、もし建築家に依頼していたら、もっと素晴らしい経験が出来て素晴らしい建物が出来たかもしれませんし、もっと酷い建物が出来てしまっていたかもしれません。」
ここまで言わなければ片手落ちです。これを読んで分かるように、この言葉は何ら建築家に依頼することの優位性を主張するものではありません。しかし、建築家に依頼することの多様性は示しています。
 それはハイリスク・ハイリターンだということです。リターンには、設計の良し悪しだけではなく、施工の良し悪し、交渉等の人間関係や、要した時間・労力も含まれます。ハイリターンが得られなかったときにはミドルリターンが得られる保証は無く、ローリターンな可能性すら有ると言う事です。建築家に依頼する人を増やす為には、このローリターンの可能性を減らす努力も必要でしょう。

 ある人は、建築家との家造りは「化合」でハウスメーカーでの家造りは「混合」だと言いました。一見言い得て妙な感じですが、ハウスメーカーの限界を殊更に強調しているような気がします。施主とビルダーのやりとりの結果、施主が思い描いていた以上の家が出来たのであれば、それはハウスメーカーとの家造りであっても「化合」だと思うのです。これ以外にも、どうも建築家との家造りの時だけ特別なことが起こるかのような表現が目立ちます。

 確かにハウスメーカーでは標準仕様という足かせはあります。でも建築家への依頼でも、施主がこだわりを持っておらず、建築家もそこで冒険をしようと思わない箇所については、その建築家の使い慣れたお気に入りの部材や工法が、ある種の標準仕様のように使われることでしょう。それが明文化されているか、コストに影響を与えるか(ハウスメーカーの標準仕様は安めに設定されているので)、の違いがあるだけで、実は根底はさして変わらないのです。

 私は建築家に依頼するのは何ら「特別なこと」では無い、ハウスメーカーに依頼するのと変わらない、と思うのです。建築家に依頼することがあたかも上位に居るような錯覚を与えて、そこに登っておいでよと呼ぶのではなく、建築家に依頼することが一般のレベルに下りてくる事こそ、建築家に依頼することが普通のことになる第一歩だと、私は考えています。他者との差別化は営業上確かに必要です。しかしそれはハウスメーカー同士が他社との差別化を進めているのと同等な個々の項目に関する差別化であるべきです。建築家とハウスメーカーという大枠で精神論に走った差別化は、単に孤立を招くだけで、一部の「それでも建築家と建てたい」と思う人だけが依頼する、まさに「特別なこと」になってしまうでしょう。

 建築家の方達は、是非、「建築家に頼むことは特別なことではない」事を認めて、その上で様々な条件への対応設計力、得意な意匠、得意な部材等、個々の項目で他のビルダーや設計事務所との差別化を語り、リスクを低減する為に施工業者を見る目を養い、施工業者を選択する基準を施主さんに分かりやすい形でしっかりと明示して、コストや施工に関するネガティブなことも含めた全ての説明責任を果たしてもらえることを希望します。そして、それらを施主候補の目に付くところに提示して来て(営業して)欲しいのです。そうすれば、建築家に依頼する人が徐々に増えていくのではないか、と私は考えています。

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