第28回鑑賞ツアー「ルーシー・リー展」
 


参加者の感想
── 茨木風太郎 ──

 ミュージアムアクセス・ビューの美術鑑賞のイベントに初めて参加しました。
三人一組で、見えない人・見えにくい人(視覚障害者)一人に見える人二人で グループを作ります。ですから、見えない人・見えにくい人を真ん中に、 見える人が両側について、美術品を鑑賞するスタイルになります。私は、 ロービジョンですので、ぼんやりなら見ることができます。それに加えて、 お二人がステレオで解説(ガイド)してくれるわけです。ぼんやりとした陶磁器の 形や色を見ながら、お二人の解説を聴きます。ぼんやりと見えている作品が 具体的に現実のものとなってきます。
 ルーシー・リーの色は、ヒンク・青・緑と特徴のある色を出しています。 その微妙な色の感触を想像しながら、自分の頭の中で作り上げていくわけです。 視覚障害者ですから、現実のリアリティのある彩色と私の想像のなかで 生まれたバーチャルな彩色とその二つの間にある差異がとても刺激的で 楽しいものになります。
たぶん、現実の陶磁器をみながら、視覚障害者である特権を使って、自分の 頭の中に錯視のバーチャルな現実を作り上げているのだと思います。その 想像力こそが、とてもワクワクとして、ルーシー・リーの作品を見ることに つながっているのだと思います。
 ウイーンからロンドンでの陶芸生活において、だんだんと形も色もシンプルに なってきます。ルーシーの陶磁器は日常生活で使う道具として作られたものであり、 芸術作品として作家が作ったものではないと思います。そのあたりが、日本の 民芸にとても近いイメージを持ちました。バーナード・リーチとも親交が あったとのことでうなづけます。
ロンドンに移住した頃は、生活が苦しく、キャベツで胃袋をなぐさめたようです。 そのために、生活のためにボタンの製造・販売をしました。その時の彩色の釉薬の研究が 後の作品をさらにすばらしいものに変えました。また、釉薬の処方を暗号でノートに 書いて後世に残してくれています。秘密の暗号です。これを解読することもこれからの 研究者の課題になると思います。ルーシーはいろいろとトリック装置まで残してくれました。
 また、点字で図を作ったエーデル(触図)をスタッフが作成してくれました。
触図はとても難しくなかなか分かりません。ところが、実際に作品を鑑賞しながら 触ったり、解説を聴きながら触れば、だんだんと形が明瞭に見えてきます。 自分の頭の中に絵をかいていくようなイメージです。
一人では、鑑賞できないものが、三人一組なら想像力を働かせて、よりリアルに バーチャルに鑑賞できることがとても楽しいです。三人で織り成す美術鑑賞が 豊かなものであることを願っています。また、視覚障害者が見える人にどのような 影響を与えているかを知りたいです。
 このイベントを計画していただいたミュージアム・アクセス・ビューの スタッフの方々に感謝の気持ちで一杯です。ありがとうございました。

── 田中賢 ──

こんばんは!陶芸作品の観賞は初めてでした。最初に点図のおかげで器の 特徴がだいたいイメージできてよかったです。
広い口、くびれた細い部分、歪んだ楕円、表面のつるつる感、軽石みたいな ごつごつ感、彫られている放射状の線、たくさんの言葉で説明していただけました。 緻密な感じが伝わりました。そしてやはり女性をイメージさせる形なんだろうなと 伝わりました。実際にさわってみられたら感動だろうなと思います。
とてもうすいカップ、湾曲のかんじはどんなだろうかと手触りを想像しつつ、 それを作ることはとても難しいんだろうなと考えてみたり。むかし美術の時間に 陶芸をしましたが、いつもうまくいきませんでした。ふとそんなことを思い出したり。 イメージどおりの作品を作れることが、僕にとってはすごいことです。
色についてすずきさんやかみやさんはたくさん言葉で伝えてくださいました。 たとえばお皿のピンクについて、桃みたいに黄色がかったのではなくて、 八重桜がしっかり咲く直前のピンク、咲いてしまうと白っぽくなるとか。 それから緑について、自然のコケの感じ、湿り気のある日陰、自然の緑、 とても落ち着いた感じなどなど。僕にはそのような色のイメージが新鮮でした。 自然の中にある色をあまり見分けられていないんだなあと、おもしろい発見でした。 何よりも、ひとつの入れ物をいろんな角度から、あれこれと眺めている ことが、面白かったりしました。 それと、自分の場合は少し抽象的な作品のほうがいろいろ考えもイメージも 広げやすいみたいです。
という感想でした。ありがとうございました。
またいろんな発見をしたいと思います。次も時間があえばぜひ、よろしく お願いします!
それでは。お元気で!

── 田村香 ──

 ミュージアム・アクセス・ビューさんの活動には、以前から興味がありました。 しかし、仕事等で日程が合わず、やっと念願が叶いルーシー・リー展の鑑賞ツアーに 参加する事が出来ました。参加する前からワクワクした気持ちでいっぱいでした。 作品を言葉で説明するという事は、どの様な事なのだろうと思っていたからです。
 といいますのは、私自身、見えない人や見えにくい人と日本庭園を鑑賞する 活動を主催しており、庭園の風景を語り、その風情を共に味わうという事を 行っております。日本庭園のほかに街中や普通の何気ない場所についての鑑賞も 行います。まだまだ始めたばかりのヒヨッコですので、この様な経験豊かな 皆様と同行がかないとても良い一日でした。
 ルーシー・リーの作品は独特のデザインと美しさと危うさが人々を魅了して やまないのだと感じており、とても好きな作家のひとりです。
 上手く説明するとかどうかをさて置き、当日一緒に行動していただいた方々と 作品の前に立った瞬間の空気感は視覚という情報に頼ることなく、他の感覚を 共有した様に感じました。例えば、「ツルっとした感じの飲み口で、このカップの 口当たりに合いそうなものは、お茶がおいしく飲めそう」「いやいや僕ならお酒だよ」 「ああ、それも良いですね」という様な会話が何度も生まれました。 まさに、作品を通して語る言葉から様々な情景が生まれ、共感覚が体験出来たように思います。
 作家が作品に込めた思いを受け止め、言葉にする。言葉が物語を生む。そうすることで 作品がただの置物(表現が悪くてすみません)から、生きたものに生まれ変わった場所に 立ち合えた気がします。アート作品は、好みがありそれによって語る言葉も 変わってくるでしょう。しかし、重要なのは見る側の人が居てこその作品であると いう事を教えてもらった気がします。専門家でない、ただの一鑑賞者という立場の私が 見えない人、見えにくい人と絵や作品を見るという事は、大げさかもしれませんが、 作品の最終仕上げに立ち会っている様な錯覚さえ覚えました。
 結局、私自身がとても楽しく鑑賞して終わりました、ご同行をしていただいた方も そうであれば、良いなと今更ながら、ちょっと心配になったりしています。 ありがとうございました。今回は、感想を話す機会は無かったようですが カフェで色々とお話を聞かせて頂きました。それが、とても心温まるひと時でした。
 ミュージアム・アクセス・ビューさんの今後の活躍にますます目が離せません。 とても楽しみです。私もがんばらなきゃと、良い意味で刺激を受けました。 そして、一緒に鑑賞していただきました方々、スタッフの皆様、参加者 の皆様、素敵な時間をありがとうございました。

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