Song for You♪

そら豆応援団  第一章*一* 二* 三* 四* 五* 六*

「ゆうたらなんやけど・・」の特設ページとして、設置しました。
ちっちゃいそら豆君ですが、老いてからの、しかも望まぬ再出発、
それも生きている証と、事に取り組み始めた、じいちゃんと、ばあちゃんを
力一杯応援したいと、思います。
尚、更新は取材の都度になります、とくにUP出しません、ご了承下さい。
(平成15年3月記)



第一章 終の棲家が消えるとき

*  一  *
そら豆君が、その家に行き始めた頃のことから書こうと思う。
その頃そこは、雑木林を越えていかなければ成らず、
夕暮れなど、行くのを少々躊躇してしまうような所。

静かだった。
雑木林を過ぎると、ユキヤナギが砂利道沿いに咲き、
その、白くこんもりした辺りに、大きな灰色の石があった。
ある時、その上で何か動いたように思って、よく見ると、
うす茶色の野ウサギが、こちらを覗いていたので、
「お邪魔しますね・・」と、そら豆君は思わず頭を下ていた。

家の前に、ばあちゃんが少しだけ作っている菜園があって、
そこから、薬味のネギを採ろうとしてた時、
見た事のない、大きな鳥が二羽、ちょこちょこ歩いていた。
あとで、じいちゃんに聞いて、キジだと解った。

東に歩いて行くと、川が流れていて、その頃一緒に住んでいた、
犬のサブくんと、散歩するのに、丁度いい距離だったように思う。
向こうには、低いなだらかな山が見え、
田植え前に成ると、
水をいっぱい溜めた、田んぼに春色の山が逆さに映って光っていた。

こうして不便だけど、
心地よい空気を感じての、じいちゃんと、ばあちゃんの生活が始まった。

*  二  * ↑上へ
ところが、そおいう所だからこその、問題が起こる。

屋根に雹が振ったように、バラバラと何か落ちる事がたびたびあった。
天気は、いいのに、おかしい。 屋根から落ちたものを拾って、驚く。
散弾銃の薬莢で、まだ、かすかに熱を持っていた。
つまり此は、禁猟区になっていない東の山辺りから猟銃を撃った証。
そら豆君が見かけた、野ウサギ、キジをねらったものと思われる。

もちろん此処には、人が住んでいて、第二種住居専用地域となっている。
にもかかわらず、近距離からの発砲は、危険きわまりない。
「人が住んでいて、危ない」と、注意をした、じいちゃんに銃口を向けたままでの答えは、
「撃っている所は、禁猟区になってないから・・」
その態度にも、はなはだ危険を感じずにはいられなかった。
だとすれば、東の山も禁漁とせねばなるまい。ばあちゃんの役所廻りが始まった。

相変わらずのお役所仕事、管轄が違う、此処では決められない、それはどこそこで、等々。
ぐるっと回ってまた同じ所へ、そんな事を繰り返し、夏がもう終わろうとしていた。
その辺り一帯が、禁漁区となったのは、木々の葉がすでに落ち始めた頃であった。
自分の安全はみずからでしか守っていけない、そう思い始めた秋は、足早に過ぎようとしていた。

近くに子供達を預かる施設が引っ越してくる事になった。
「これからを、生きる子供達を そばで、見ていられる事が嬉しかった」と、
ばあちゃんが、咲き始めた沈丁花の白い花を一枝、花瓶にさしながら言った事があった。

* 三 * ↑上へ
二人が、そんな春の初めを、いい香りで、迎えていた矢先、
今度は、飲飲料水の問題が持ちあがってきた。
それまで、各個人の家で、井戸を持っていたから、鉄分が、少々多い水質ではあったが、
それで用が足りていたのである。ばあちゃんが保健所まで行って、
調べてもらったところ、「飲料は、可能だけど・・・」との事であった。

洗濯物が、赤錆が付いたようになり、まっ白には、成らなった。
そら豆君は、どうして、ばあちゃんの所のタオルが、いつもうす茶色だったのか、ここでやっと解った。
水質がそうさせていたのだった。

子供達を預かる施設が、越してくる事から、飲み水は、今のままでいいものだろうか?という、
疑問が、じいちゃんの気持ちの中で、だんだん大きくなって来たのである。

数軒ではあるが、近所の家々に声をかけた。
「今、水道を引くべきではないだろうか?ここに住む人達みんなで協力して、水道をひこう。」
じいちゃんは、各家々に説得を重ね、更に役所を廻り、
微力ながら、そら豆君も、説明書きを大きな紙数枚に、マジックペンで大きく書いた。
ばあちゃんの、手料理もお目当てだったが、この時は、まめに通った記憶がある。

何軒か集まっての工事、その施工費用、分配要項、水道局に申請するため必要項目。
その日は、遅くまで、手作りの説明会が、続いた。
金銭がからむと、それぞれの思惑がどうしても、違ってくる。
権利の主張、今どうしてもそれをやるべきかという疑問、現在使用している井戸で充分、などなど。

ひとりで負担するには、大きすぎる費用、申請と交渉だった。
しかも、面白い事に、そこまで施工した後に来た人が引く水道は、そこから先の負担となるので、
格段に割安となる。そんな事もあり、各家は、協力にあまり力が入らないようであった。
施工後なら、今の負担より、お安く水道の設備ができる。考えるまでもない、後で引く方がいいに決まってる。

しかし、ここで退く訳に行かないじいちゃんは、力説した。
協力して事を為し遂げる事と、将来に残すよりよい環境を、どう作り上げていけばいいのかを・・・。
そうして、熱心にひとりひとり、説得を続けたのである。

皮肉な事である。そうした小さな努力が、今、大きな力の前で、消え去ろうとしている。
自らが望んだ必要性が、望まぬ必要性にまさに今、飲み込まれようとしているのである。

そして、そんな事とはつゆ知らずの、
子供達が、数人裸ん坊で、ばあちゃんの菜園をキャ、キャと、走り抜けて行く。
かつて、キジがここで遊んだ事も、だんだん遠くへ行ってしまったかなぁ〜と、思ったら、
ヒグラシの声が、一瞬大きく、聞こえたような気がするそら豆君であった。

* 四 * ↑上へ
今現在、使用している、舗装の道路がある。
何でもないように、誰もが生活に、また仕事に支障なく使っている。
工事車両など、ここから難なく入って来る事ができる、そこそこに幅にある道路である。
この道は、雑木林を抜ける砂利道であった。

ある日、そら豆君は、暗くなってからばあちゃんの所に行こうと、
この道に通じる曲り角まで来た。が・・・
いつも曲がっていた角がなくなっていた。どお言う事なのか解らぬまま、近くの公衆電話を捜した。
ばあちゃんが困惑した声で、受話器をとってくれた。そうして、
ずっと手前からの、ほそい脇道を教えてくれたので、そこをゆっくり通って、
やっと、ばあちゃんの所へたどり着いた。

調べてみると、此のなくなってしまった道は、市道になっている。
きちんとした公道である。
その公道がある日突然なくなったのは、どお言う訳があるというのか。
またしても、じいちゃんは、役所に行く事になってしまった。
夕暮れが少しずつ遅くなって来て、爽やかな風が吹き始めた頃の出来事である。

市で、誘致する事になっている、施設の敷地に、あろう事か、
敷地脇を通っている、生活道路までも、含めてしまっていたのである。
依頼された業者は、施設の庭として、さっさと造成にかかってしまった。

こうして、いとも簡単に重要な生活道路を失った。
この場所に暮らして来た何軒かの人々は、事前に知らされる事もなく、
ある日突然、「通行止め」の看板に、
生活道路使用権を、剥奪されたのである。

* 五 * ↑上へ
この大切な生活道路を奪回すべく、じいちゃんはまた立ち上がるのであった。
しかし奪回は、困難を極め、時間だけがただ過ぎていった。
どうしてもこの道を残さねばという人、回り道だけどそちらで我慢しようとする人、
物言わぬ看板だけなぜかひとつの意志を持って立ちはだかり、
どっちつかずの業者達は、戸惑うばかり、
当の役所は、相変わらず、結果が出せずに持ち回るだけ。

その間、造成工事は、しずしずと進み、この不便さに住民が慣れそうな頃、
やっと生活道として、復元がかなった。
仮舗装だけど、そら豆君には、なんとなく眩しく見え、嬉しかった。
そんな事があってから、
この道を通る時、少しだけ人の思いの深さが暖かく感じられたりするのであった。

ただ、この頃から、
その辺一体の雑木林が、少しづつなくなって行ってる事が、どお言う意味を持つのか、
まだ、じいちゃんも、ばあちゃんも、まして、ちっちゃいそら豆君には、解っていなかったように思う。
雑木林に自然に育ったと思われる、アオイやシュロの木、そのまま掘り起こし、枯らしてしまうのが忍びなく、
じいちゃんに言われて、小さいのを運んでは、ばあちゃんと畑脇に植えたりしていたのだが、
つまりそれは、この先に来る大きな波の予震であったのだ。
遠くからその波は、徐々にそして確実に、この地に住み始めた人達を巻き込もうとしていた。

その時の写真数枚の紹介は、後日


* 六 * ↑上へ
金木犀、柿の木、それにコブシなんかがごそごそと、植え込まれている庭の一角がある。
駐車用カーポートのすぐ南である。お陰でこの屋根は、
いつも葉っぱがいっぱいだったけれど、日差しは、十分に避けられていた。

いつの頃からか、鳩のつがいが巣を作るようになっていた。
そんな事に気が付いたばあちゃんは、
木の下で、上に巣がある事が解ってしまわないように、
卵をあたため始める時期から、毎日掃除をして、ヒナが大きくなっていく様子を嬉しく見守った。

ある朝、何か巣の中が騒がしいとじいちゃんが気づく、
ヒナたちが大きくなりエサが不足したのではないかと、お店に鳥のエサを買いに出かけた。
帰ってきたらヒナたちは、もう巣立ちをした後だった。
やるあてのないエサの袋を抱えて、じいちゃんと、ばあちゃん、
それでもなんか暖かい気持ちで、カラになった巣を見上げてた。

そんな鳩たちの巣立ちをこの木立で2度見送り、それに反対側にある椿の木から一度見送った。
ささやかだけど、確かに自然の営みの、はしっこを受け持っていた。
そんな木々達、一本、一本、両手で手でぽんぽんとたたいて、
ねぎらいながら、それぞれに別れを惜しんでいた、ばあちゃん。
そう言えば、赤い帽子をかぶった鳥も、この辺に住んで居たようだったと、話してくれた。
コンコンコンと、リズミカルな音、何だろうと、その音を捜してみたら、
赤い帽子をかぶった鳥が、その帽子頭を木に向かって規則正しく動かしていたそうだ。

その鳥は、今頃何処で、あの心地よい音を立てているのだろうか。
少し光が遮られた木立の中に、ひときわ鮮やかな赤い帽子・・・
そら豆君は、そんな光景を想像して、机をコンコンと、たたいてみた。





4/8 きょうはここまで













第二章 新たなる出発

ここまで書き続けられれば・・と、
そら豆君は思っています。