山村暮鳥
「風は草木にささやいた」



  
 都会にての詩


 
都会はまるで海のやうだ
 
大波のよせてはかへす
 
此の海のやうな煤煙のそこで渦く
 
千万の人間の声声
 
よせてはかへす声の大波
 
大きな一つの声となり
 
うねりくねり
 
のたうちながらも人間であれ
 
ああ海のやうな都会よ
 
その街街家家の軒かげにて
 
飢ゑながら雀でさへ生き
 
そこで卵をあたため孵へしてゐるのだ
 
強くあれ
 
強くあれ
 
人間であることを信じろ
 
それを確く