山村暮鳥
「風は草木にささやいた」



  
 一本のゴールデン・バット


 
一本の煙草はわたしをなぐさめる
 
一本のゴールデン・バットはわたしを都会の街路につれだす
 
煙草は指のさきから
 
ほそばそとひとすぢ青空色のけむりを立てる
 
それがわたしを幸福にする
 
そしてわたしをあたらしく
 つ や
光沢やかな日光にあててくれる
 
けふもけふとて火をつけた一本のゴールデン・バットは
 
騒がしいいろいろのことから遠のいて
 
そのいろいろのことのなかにゐながら
 
それをはるかにながめさせる
 
ああ此の足の軽さよ