山村暮鳥
「風は草木にささやいた」



  
 


 
と或るカフヱに飛びこんで
 
何はさて熱い珈琲を
 
一ぱい大急ぎ
 
女が銀のフォークをならべてゐる間も待ちかねて
 
餓ゑてゐた私は
 
指尖をソースに浸し
 
彼奴の肌のやうな寒水石の食卓に
 
雪のふる山を描いた
 
その山がわすれられない