山村暮鳥
「風は草木にささやいた」



  
 そこの梢のてつぺんで一はの鶸がなている


 
すつきりとした蒼天
 
その高いところ
                            ひわ
そこの梢のてつぺんに一はの鶸がないてゐる
きのふ
昨日まで
 
骨のやうにつつぱつて
 
ぴゆぴゆ風を切つてゐた
 
そこの梢のてつぺんで一はの鶸がないてゐる
 
それがゆふべの糠雨で
 
すつかり梢もつやつやと
 け さ
今朝はひかり
 
煙のやうに伸びひろがつた
 
そこの梢のてつぺんで一はの鶸がないてゐる
 
それがどうしたと言ふのか
 
そんなことをゆつてゐたのでは飯が食へぬと
 
ひとぴとはせはしい
 
ひとぴとのくるしみ
 
くるしみは地上一めん
 
けれど高いところはさすがにしづかだ
 
そこの梢のてつぺんで一はの鶸がないてゐる