山村暮鳥
「風は草木にささやいた」



  
 雨は一粒一粒ものがたる


 
一日はとつぷりくれて
 
いまはよるである
ゆふげ 
晩餐ののちをながながと足を伸ばしてねころんでゐる
 
ながながと足を伸ばしてねころんでゐる自分に
 
雨は一粒一粒ものがたる
 
人間のかなしいことを
 
生けるもののくるしみを
 
そして燕のきたことを
 
いつのまにかもうすやすやと眠つてゐる子ども
 
妻はその子どものきものを縫ひながら
 
だんだん雨が強くなるので
 
播いた種子が土から飛びだしはすまいかと
 
うすぐらい電燈の下で
 
自分と一しよに心配してゐる