山村暮鳥
「風は草木にささやいた」



  
 わたしたちの小さな畑のこと


 
すこし強い雨でもふりだすと
 
雀らにかくしてかけた土の下から
 た ね
種子はすぐにもとびだしさうであつた
 
私達はそれをどんなに心配したか
 
そしてその種子をどんなに愛してゐたことか
 
それがいつのまにやら
 
地面の中でしつかりと根をはり
 
青空をめがけて可愛いい芽をふき
 
かうして庭の隅つこの小さな畑ででも
 
其の芽がだんだん莖となり葉となりました
 
それらの中の或るものなどは
 
たちまちながくするすると
 
人間ならば手のやうな蔓さへ伸ばしはじめた
 
それではじめて隠元豆だとしれました
きのふ
昨日夕方榾木をそれに立ててやつたら
 け さ
今朝はもう、さもうれしさうにどれにもこれにもからみついてゐるではありませんか
          とうもろこし  きうり
此の外に、蜀 黍と胡瓜と
 
数種の秋のはなぐさがあります
 
どれもこれも此の小さな畑のなかで満足しきつてそだつてゐます
 
そしてそれらの上に太陽は光をかけ
 
太陽のひかりは小さな畑から
 
あたり一めんにあふれてをります