山村暮鳥
「風は草木にささやいた」



  
 一日のはじめに於て


 
みろ
 
太陽はいま世界のはてから上るところだ
 
此の朝霧の街と家家
 
此の朝あけの鋭い光線
 
まづ木木の梢のてつぺんからして
 
新鮮な意識をあたへる
 
みづみづしい空よ
 
からすがなき
 
すずめがなき
 
ひとびとはかつきりと目ざめ
 
おきいで
 
そして言ふ
 
お早う
 
お早うと
 
よろこびと力に満ちてはつきり
 
おお此の言葉は生きてゐる!
               ヽ ヽ ヽ
何といふ美しいことばであらう
                       きよ
此の言葉の中に人間の純さはいまも残つてゐる
 
此の言葉より人間の一日ははじまる