山村暮鳥
「風は草木にささやいた」



  
 家 族


 
わたしの家は庭一ぱいの雑草だ
 
わたしは雑草を愛してゐる
 
まるで草つぱらにあるやうなわたしの家にも冬が来た
はがね
鋼鉄のやうな日射の中で
              ヽ ヽ ヽ ヽ
いのちの短いこほろぎがせはしさうにないてゐた
               ヽ ヽ ヽ ヽ
わたしらはそのこほろぎと一しよに生きてゐるのだ
 

 
日一日と大気は水のやうに澄んでくる
 
いまはよるもよなかだが
 ヽ ヽ ヽ ヽ
こほろぎはしきりにないてゐる
        ねどこ
わたしは寝床の上ではつきりと目ざめた
 
子どもを見ると
 
子どもはしつかりその母に獅噛みついてゐるではないか
 
そしてぐつすりねこんでゐる
 
おお、妻よ
 
お前もそこでねむれないのか
 
しんしんと沁み徹るこの冷気はどうだ
 
もつとおより
    かたまり
一ツ 魂 りになるまで