山村暮鳥
「風は草木にささやいた」



  
 薄暮の祈り


 
此のすわり
 
此の静かさよ
 
而もどつしりとした重みをもつて林檎はまつかだ
 
まつかなりんご
 
りんごをぢつとみてゐると
 
ほんとに呼吸をしてゐるやうだ
 
ねむれ
 
ねむれ
 
やせおとろへてはゐるけれど
     て
此の掌の上でよくねむれ
 
此のおもみ
 
此の力のかたまり
 
うつくしいのは愛だ
 
そして力だ
 
林檎一つ
 
ひたすらに自分は祈る
 
ましてこのたそがれの大なる探さにあつて
 
しみじみとりんごは一つ
 
りんごのやうに自分達もあれ
 
此の真実に生きよう